Neetel Inside 文芸新都
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 俺の家庭環境は、自分自身でもかなり異常だと思っている。親父は、仕事の都合で家を離れ、関東地域で単身赴任している。母さんは未だ現役の会社員で、この頃は深夜遅くに帰宅する事が多くなった。しかも、そういう時に限って酔い潰れてるから迷惑極まりない。姉貴は姉貴で、大学のサークルがどうこう等と言って、たまに数日ほど家を空ける事がある。そのサークルがよりによってサバイバルゲーム同好会。高校生時代はぬいぐるみと少女コミックを自室に溜め込み、知り合いには万年お花畑状態のお嬢様とまで言われた姉貴だが、大学に入って以降、部屋の棚にはミリタリーグッズやモデルガン等が大量に並べられている。何気なくぬいぐるみの行方を聞いたところ、
「女の子の遊びに飽きたから従姉妹に全てプレゼントした」
という。もはや凡人からしてみれば、理解の範疇を超えておられるわけだな。
 まあ、そういう状況下に置かれていながら、俺は母さんや姉貴とは違い一般的な人間として育ったわけだ。それ故に、この二人の行動に苦しめられる事も多々あるのだが。親父がなぜ単身赴任を続けているのか、今なら何となく理解できる気がする。
 話を元に戻そう。帰宅した俺は、薄汚れたこの猫を洗おうと思い、猫を抱えたまま洗面所へと向かった。とはいえ、そういった行為を嫌がって暴れ回られるのは困る。とりあえず、濡らしたタオルで拭くのがいいかもしれない。そう思って、俺は一旦手を荒い、猫を洗面所に放置したままタオルを取りに行った。
「といっても、バスタオルじゃ大き過ぎる気がするな」
タンスの引き出しを漁りながら、俺は猫の体を拭くのに丁度よい大きさのタオルを選定した。幸いタオルは大量にあるから、何枚か使っても問題ないだろう。俺はタオルの山から手拭き用のタオルを取り出し、タンスの中身を元に戻して洗面所へ戻った。
「猫の奴、逃げたりしてないよな?」
等という心配をしつつ、閉まっていた洗面所のカーテンを開ける。…なんで閉まってるんだ?疑問に思いつつ、視線を前方に向ける。と、
「ひゃうっ!」
そこには、裸体の少女が立っていた。
「な、なにぃぃぃぃっ!」
 俺は猫を洗面所に持って行った筈なのに、戻ってきたら裸体の巨乳少女がいた。な、何を言ってるのか分からないと思うが、俺も何が起きたかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった…。催眠術だとか変身だとか、そういうちゃちなモンじゃあ断じてねぇ!…と、ポルナレフ状態で硬直している俺の前で、少女は茹蛸さながらに顔を真っ赤にしてしゃがみ込んだ。あー、こういう時はどういう対応を採れば…。どういう…。
「すまん」
俺は、いつの間にか真顔で口走っていた。その次の台詞は言わずもがな。
「ごゆっくりっ!」
そのまま急反転し、カーテンを勢いよく閉めながら、その場から全力で退避する。何故に不自然過ぎる対応をしたんだ俺は!しかし、ここであの子を押し倒したりなどしてみろ、それこそ最悪じゃないか。などと一人でブツブツ呟いた後、今度はバスタオルを持って洗面所へと向かった。
「えーっと。…その、さっきは悪かった」
「ひっぐ…えっぐ…」
鼻水を啜る音がするカーテンの反対側に向かって、俺は声をかけた。
「とりあえず、シャワー浴びてきたらどうだろう。その間に服とタオル置いとくから」
「ずずっ…ずみまぜん…ううっ」
彼女の声が聞こえて暫くしてから、風呂の戸が開く音がし、すぐに閉まった。とりあえず時間稼ぎはできるか。その間に、先程のアクシデントを自分なりにまとめておく必要があった。俺は、姉貴の部屋から下着とTシャツとホットパンツ(丁度それしか無かった)を拝借し、タオルと一緒に洗面所のカゴに入れた。その後で、リビングのソファに座り考察する。まず、少女=あの猫とすれば、何故少女は猫の姿をしていたのか。更に言うならば、彼女は化け猫―そんなものが実在するとは考えられないが―の類なのだろうか。そして、ビルの倒壊と彼女とどういう関係があるのか。場合によっては、彼女の行動が直接の原因となった可能性もあるわけだし…。うーん、わからない。

       

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