Neetel Inside 文芸新都
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…暫く沈黙が流れる。
今、何て言った。この女、ここに滞在するって言わなかったか?
「それは冗談で言っているのか…?いや絶対冗談だろ、な?」
「私は本気だ。民間人が魔女の人質にされたりした場合動き辛い。お前とその身辺の警護のため、ここに滞在する」
冗談じゃないのかよ。真顔で答える彼女に、俺は半ば呆れた表情を浮かべる。
「ご迷惑をお掛けしますが、貴方の身の安全を確保する為です。お願いします」
猫少女が俺に向かって頭を下げた。一方の飼い主は懇願するわけでもなく、当然の事だろうと言うかのごとき表情で、俺の方に視線を向けている。どこかのアダルトゲームの主人公なら喜んで招き入れるだろうが、生憎俺には、この無愛想な厨二病患者と化け猫のコンビをこの家に住まわせるほどの寛容な精神など、一切持ち合わせていない。
「駄目だ。二人も余分に住まわせるだけのスペースがない」
「半ば物置と化している空き部屋があるようだが、そこでは駄目か?」
何処でもいいから住ませろというわけか。本当に強引な奴だな。少しは人の迷惑も考えたらどうなんだ、おい。
「そこに置いてある物を何処へ持っていく気だ。大体、何でお前が物置部屋の存在を知ってるんだ?」
「前もって各部屋の状況を確認しておいた」
ああ、なるほど。それなら納得だ。
「って、不法侵入かよ」
状況の把握に一テンポ置いた後、俺は思わず呟いた。やはりとんでもない奴だ。これはもう警察に突き出すしかないだろう。そう思っていると、彼女は言葉を付け足した。
「お前の姉から許可を貰ってある。『あの子にも彼女がいたなんて…』等とぼやいていたが、一体何の事だ?」
「あの馬鹿姉貴…!」
せめて留守なら良かったものを。この不振人物をよりにもよって恋人と勘違いとか、絶対ありえないだろ。何処まで幸せな脳内構造なんだ。俺は、姉貴に対して今までにない程の殺意を抱いた。ただ、単に抱いただけ。
「片付けなどは私達で済ませておく。必要なら、家賃も払うぞ」
「そういう問題じゃないだろ…」
「そういう問題だ。もし、魔女の襲撃を受けたらその程度では済まない。良くて家屋の半壊、最悪この家を中心とした一帯が消滅する」
俺にとっては、その最悪の事態が発生した方がよっぽどマシに思える。日常的な地獄と一瞬の地獄、どちらかを選べと言われたら間違いなく後者を選ぶぞ。とはいえ、一旦こうなってしまっては仕方がない。結局、俺は彼女達の居候を許可する事になった。

       

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