Neetel Inside 文芸新都
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三題噺コンテスト会場
No.36/犬のキモチ/空気

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「電話来るかな?」
 そう目の前で俺の耳をなでながら、今日何度同じことを言ったかわからい台詞を吐いているのは、俺のご主人だ。今日はどうやら何かの行事の電話待ちらしい。いつもなら気丈なご主人も今日は俺の周りをふらふらと歩いてなんだか落ち着きが無い。俺はどうしたの?とでも聞きたかったが、俺の声がご主人に理解できるとは思えない。ためしに今日のご飯は何か聞いてみることにする。
「なんだ?ジロー、俺のことを心配してくれていいるのか?」
 違うよ、俺は腹が減っているんだ、ご飯をください。しかし、ご主人は俺を抱いて優しくなでてくれる。これはこれで嬉しいが、今はそれよりご飯がほしいですご主人、おなかが減っているんです。しかし、ご主人はそんな俺の心境を知るよしも無く、俺をなで続ける。さて、ご飯はもらえそうにないし、暇だから、なんでこんなにご主人が乱れているのかを思い出そう。
 たしかあれは確か昼のことだった。ご主人は今のあたふたした状態ではなく、やたらとニヤニヤして帰ってきた。その手には火薬のような匂いのする袋を下げていた。そして俺にいったんだったな。
「薫に今日の祭りに一緒に行く予定を取り付けてきた。了承の場合は電話がかかってくる」
 確かこんな内容だったような気がする。薫というのはご主人がホの字の女性だ。確かジャーキーをくれた。よし、ジャーキーをくれるならならばきっといい人だろう。話は少し脱線したが、多分ご主人はジャーキーの人からの電話を待っていると言うことになるな。
 しかし、ご主人は待たされるくらいで情緒不安定になっただろうか?その理由も俺が窓に目を向けることで解決した。もう夜だ。帰ってきたのが昼だから夜になるには結構な時間が必要だ。人間は時計という便利なものがあるらしいが、俺は理解できないのでなんとなくしか時間が分からない。なんだかそう思うと、ご主人がかわいそうに思えてくる。なので俺はご主人の頬を二、三度なめてできるだけ感情を込めて、元気を出せよ。といってやる。通じるわけは無いが。
「なんだ?俺のほっぺたなんかなめて?……そうか飯か」
 そういってご主人はご飯を取りに行く。畜生、やっぱり俺たち犬と人間なんて分かりあえやしないんだ。そう悲観してみるが、ご主人の持ってきた美味しそうな匂いのトレーのおかげでそんなくだらないことは頭の片隅に追いやられる。やっぱり缶詰はうまい。ご主人はよく分かっている、人間との共存最高。
「電話かかってこないな……」
 ご主人の寂しそうな声に、俺はがっついていたトレーから口を離す。絶対に通じはしないと分かってはいるので思い切って言ってやる。器の小さい人間だな。と、笑いながらにだ。
「犬の癖に人様の器が小さいとは生意気なんだよ」
 そうご主人は笑いながら俺を小突く。電話ごときでうだうだ言ってるやつは器が小さいんだよ。そう心の中で思う俺だったが、ふと気付く。
 今、通じた?
「俺には無理だったんだよ」
 そう開き直るご主人にその通りだと機嫌よくこたえてやると、ご主人は俺のご飯が入れてある大きな箱の中からご主人の気分転換のときによく飲む缶を取り出してテーブルに運び。類出に色々と持ってくる。
「今日はとことん飲むぞ。付き合え、とっておきのえさを出してやる。後で買ってきた花火もしような」
 そうご主人が言って缶のふたを開けたときに電話のベルが鳴った。なんだ、とっておきはお預けか。

       

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