Neetel Inside 文芸新都
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三題噺コンテスト会場
No.51/三題噺/ono

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8月16日 日よう日
今日はけいたいでんわをかってもらいました。お母さんは小学生のうちはいらないといつもお母さんは言ってたけど、キッズけいたいなので、よかった。
あやしい人がちかづいてきたらでんわしなさい、と言われた。おばあちゃんがしんでから、お母さんはますます心ぱいしょうだなと思った。

8月17日 月よう日
今日は公えんで夏まつりがありました。まい年行く夏まつりなので、しっているふうな出店ばかりでしたが、しらない出店がひとつありました。店のあやしいおじさんは「かっていくかい」と一枚の地図を見せてきたけど、あやしいのででんわをしようと思ったけど、「さいきんちかくでたいせつな人がしんでいたとしたら、この地図のばしょに行けば会えるよ」とおじさんが言ったので、ぼくはおばあちゃんに会えるかなあと思って、かった。40円だった。
明日はこの地図をもってたんけんに行こうと思う。

8月18日 火よう日
今日はあさの8時から、昨日の夏まつりでかった地図と、日記ちょうと、けいたいと、オーザックをもってたんけんに行くことにした。地図はていぼうの先のほうをさしていたので、ていぼうに行きました。ていぼうの下は長い草がぼうぼうになっていて、下がどうなっているのか見えないけど、地図がそこをしめしていたので、ぼくはていぼうをおりて行きました。
草をかきわけていくと、どこがどこかわからなくなったけど、地図のとうりに行ったら、しらないところにつきました。そこはすこしさむくて、おそう式のときと同じにおいがしました。
きゅうに「バウ!」と声がしたのでふりかえってみると、しんだはずのおばあちゃんが、むかしかっていてしんだ犬のジローをかかえてそこにいました。ジローはあばれて、おばあちゃんはそれをおさえつけていました。おばあちゃんは前よりずっと細くなってやせていて、ジローは目が出てだらしなくたれていました。
ぼくは心ぱいになっておばあちゃんにオーザックをあげようとしたけど、おばあちゃんは「いらないわ」といいました。生きている人は生きものを食べるから、しんだ人はしんだものを食べるのよ、とおばあちゃんは言った。
おばあちゃんはいきなりジローにかみついていった。ジローの手がちぎれておばあちゃんはおいしそうに口に入れた。ぼくは「やめてよ」といったけれど、おばあちゃんはどんどんうれしそうにジローを食べながらゆっくり、「じっとしてなさい、あなたも、あとで、おばあちゃんが、食べられるように、するから」と言った。
ぼくはこわくなってでんわをかけたけど、すぐにおばあちゃんがとんできて、ぼくのくびをしめてきた。
「ここで、しんだ人たちは、たましいだけになって、食べあいを、するのよ」とおばあちゃんは言った。「生まれてからも、しんでからも、そうやって生きていくのよ」とおばあちゃんは言った。おばあちゃんはすごくつよい力でぼくのくびをしめていて、ぼくはどうしようもなくて、いきがだんだんくるしくなっていった。
また何かおばあちゃんが言ったけど、それはもうぼくにはきこえなかった。



「…日記はここで終わっていますね」
小野川に少年の水死体が上がったのは8月も終わりに近づいた午後だった。何の変哲もない河原は穏やかに夏の暑さを照り返している。
「まあ日記の日付から見て、夏祭りで地図(ただの折り紙だったが)を買ってここに来たまでは本当なんだろうなあ」
死体の所持品を訝しげに眺めながら刑事が呟いた。
「もちろん魂云々の話を信じるわけにもいかん…。その時何らかの催眠状態にあってそのまま溺死してしまった…というところか…。携帯電話の発信時刻も合致する」
「彼の周りの人の死が…彼を無意識に動かす何かになっていたのかもしれませんね…」
「…………………」
「ところでしかしこの日記は誰が書いたんですかね」

       

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