No.7/愛の真珠/ポッキーボム

 そこには、いつも変わらない、一輪の蕾が生えていた。



 僕の日課は、その一輪の咲かない蕾を見に行くこと。

 その蕾は歩道の真ん中に生えていて、でもそこは人通りがほとんどないところだから、僕が見ていても邪魔にはならなかった。だから、毎日見に行っていた。咲かないこの蕾を毎日少しだけ見ているのは、なんだか落ち着く。いつしか僕は、この蕾に惹かれていった。

 だから、今日も蕾を見ている。

 この蕾は何で咲かないんだろう。
 そう思った僕は、街中を回ってキレイに咲いている花との違いを見つけることにした。

 すぐに、駅前にある花壇でキレイに咲いている花達を見つけた。いい匂いだなぁ、と思って見ていると、駅の奥から係員らしき人がジョウロを手にして現れ、まるで子供にエサを与える父親のような笑顔で、花達に水をあげていた。
 係員は汗をかきながら、それでも、それを拭いながらうれしそうに花に水をあげていた。花達もとても幸せそうに見えた。

 そうか。あの蕾に足りないものは愛情だったんだ。

 人通りも少ないあの場所では、人の愛情も何もない。 
 そう思った僕は、あの蕾がある場所へ戻った。精一杯の愛情を注ぐために、話し掛けたり、蕾の周りをクルクル回ったり、色々してみる。でも、蕾は咲かなかった。

 明日になれば咲いてるかもしれない、そう思った僕は、家に帰ることにする。明日への期待を抑えきれず、つい全力で走って帰った。


 次の日の昼頃、なんだか外が騒がしい。外を見てみると、人がいっぱい通っている。
 ああ、そうか、今日はお祭りだったんだ。


 あんまりお祭りに興味がない僕は、やっぱりあの蕾のところへ行くことにした。
 今日は、お祭りのせいかどこに行っても人通りが多い。そろそろ人通りが少なくなってくるはずの蕾への近道でも、たくさんの人が歩いていた。

 あの蕾がある通りに出る。ポツポツと人がいるようだ。すぐに蕾のある場所へ向う。



 え……? どうしたの……?



 蕾は、無残にも人に踏まれ、道に倒れてしまっていた。



 僕は悲しくて、一生懸命蕾に向かって叫んだ。何人かがこちらを見ている。でも、そんなのいちいち気にしてられない。起こしてあげようと、倒れた方向と逆向きに上げるものの、すぐにまた倒れた。この蕾が花開く姿は、永遠に見ることができないかもしれない。


 しばらく倒れた蕾の前で呆然と座り込んでいた僕は、ゆっくりを腰を上げると、家への道を下を見ながら帰った。



 帰り道は、あの蕾が天国で泣いてるかのように、細い雨が少しだけ降り注いだ。



 次の日の朝、僕は母が電話している声に起こされた。

 「……らしいわねぇ。え? 何ですって? あら、そうなの。あんな通りにあったかしら? まあ、そんな所にあったって、誰も気づきはしないでしょうから」

 母の会話をそこまで聞いた直後、僕は家を飛び出していた。あの蕾のことに違いない。母が呼ぶ声が聞こえたけど、応えてる場合じゃない。電話の相手が何と言ってたかはわからないけれど、昨日あんなに弱ってたから抜かれてしまったのかもしれない。そんなの嫌だ……!

 必死で走った。途中でこけて、色んな所が痛くなる。無視して走り続けた。

 ただ、あの蕾のことを思って。



 蕾がある通り。お祭りは2日続きなせいか、人がやっぱりまばらにいた。



 歩道を行き交う人々が、避けながら通っている場所が1つ。そこを通るとき、下を見ながら笑顔を見せている。



 もしかして!

 僕はその場所へ駆け寄った。そして、見つけた。




 そこには、いつもと変わらない、一輪の蕾が生えていた。





 ただ1つ違ったのは、真珠のような白い花びらを、纏っていたこと。






 元気になれたんだね、よかった……。とっても、とってもキレイだよ。






 僕はうれしくて、小さな宝石を纏った花の前に座ると、犬らしく大きく尻尾を振った。