三題噺コンテスト会場
No.47/祭り/YAMAIKO
祭りに行こうと思って彼女に電話をした。たぶん、しばらく前の僕だったらこんなことはしなかっただろう。ありもしないと思っていながらもそれが崇めている神の存在を恐れたり、万が一にもそこに神の存在を確信する人がいるのならばその場で頭をついて土下座したりしなければならないように。
彼女の返事はいたって軽いものだった。薄っぺらいと言ってもいい。その時点で派生した口約束の効力は祭りの当日までのものでしかない。もし彼女とずっと一緒にいるためにはこのような短い約束を何度もしなければならないのだろう。何百回だろうか、何千回だろうか、そうすると僕の頭はクラクラしてきて意識が頭からはみ出そうになってくる。幼いころにベッドの上で何度も頭が枕の中に斜行していく奇妙な体験のように。
電話を切ると町田町蔵かこっちを睨み付けてるのが目に入った。けれど僕はもうこれが大した意味の無い行為だということを知っている。そのバンド名のINUが犬を意味しないことのようにすべては切り取られてペタリと貼り付けられた意味の無い文脈だということも知っている。彼が叫んでいてもそれは別に彼が叫んでいることしか意味しない。
祭りという記号やその行事に何らかの意味を付与したい人はたくさんいるだろう。けれどそれは全く意味のないことだ。楽しい祭りだろうとなんだろうとそれは時間によって切り取られてなくなってしまう。もはや無くなったものを惜しんでいるのも馬鹿らしい。結局それは今現在のことしか意味しないのだ。
世の中の全ての人が表現者で、彼らは祭りというものをさまざまな形で表現しようとしている。けどそれは祭りという記号そのものにはかなわない、だから結局文章をすりかえる。祭りでないものを祭りといい、そして祭りそのものを祭りでないという。僕もこれから彼女をどうにかして騙さなければいけない。