No.52/夏ンデレ/庄野信也

「は?なんで?」
『いいじゃん別によー』
 夏休みが始まって、昼に起きる生活が板についてきたここ最近。
今日もまたダラダラとクーラーのきいた自室で寝そべりながらあずきバーなぞを頬張ってい
たところ、2週間は会ってない、あ、たまにメールするけど、とにかくクラスの男子から電
話が来た。2週間ぶりに聞いた声だった。
「嫌だし。浴衣とか持ってないし暑いしお金無いし」
 いきなり何の用かと聞いてみると、近所の神社で祭りがあるから来い、らしい。
デートかよ。馬鹿か馬鹿なのかどういった頭脳で物事を考えているんだこいつは。
『えっとですね…』
 と、ここで飼い犬の巨大なレトリバー種が、その犬界でも5本の指に入ると言われた聡明
な頭脳を駆使して、この部屋の扉を前足で器用に開けては颯爽と乱入して来たのであった。
この日の今の時間じゃない残り95%にこうしてじゃれつかれたのなら、褒めてつかわすと
ころだったが、不幸なことに今されるとこいつはホント邪魔でウザイ駄犬でしかなかった。
ああ寄るな舐めるなのしかかるな。臭いんだよお前あーもう。
『てことで頼むは!』
「ゴメン聞いてなかった」
『おおい!』
 悪いのはこいつだから文句は受け付けない姿勢でいこうと思うの。
どうせ理由が何であれ行く気なんか無いから、どっちでもいいんだけど。
『だからさー、なんつかさ…』
 また向こうが喋りだした辺りで、今度は駄犬が腹の上に前足を乗っけてきた。
数十キロの体重を持つ大型犬の、ちっこい前足1本に体重をかけられると地味に痛いのだ。
私はそれで通話どころじゃなくなり、相手の声も、何故か語尾で強くなる『じゃん』ぐらい
しか耳で拾えなかった。
「こんの、犬の分際でー!」
 あいた左手でその巨体を右にのけた後、体を90度回転させ両足で頭と腰をロックした。
こうすると何故か動かなくなるのだ。たまにリビングでやるからわかる。
『犬って…』
「ん?」
『犬でもいいし。むしろ犬にしてくださいみたいな』
 語気が変わったっていうか、吹っ切れて力が抜けたみたいな雰囲気になった。
ていうかさっきまで力が抜けて無かったってことに、今更ながら気づく。
しかし肝心の、言葉の意味が分からない。犬になりたい?バカ?
「どうかした?」
『告ってるんですー察してくださいー』
「ええええ」
『もういいわ。6時半まで待ってるから、来なかったらノーってことで』
 ってところで、一方的に切られてしまった。
放心のまま天井を見上げていると、耐えかねたのか駄犬が足からスルリと抜け出した。
それでハッとして頭を整理、生まれて初めて告られた。
時計を見る、あと42分。目的地まで15分、どうする。
好きとか嫌いとかそんな感じじゃないけどとか考えてると、駄犬が目に入った。
…ちょっと散歩道で通りかかっただけなんだからね、勘違いしないでよね。
「コレダ」
 そうと決まれば、急いで服を引っ張り出して顔と髪をなんとかしてしまわなければ。
あと30分しかないんだから。
sage