Neetel Inside 文芸新都
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M/m [えむえむ]
第一回「全ての始まり」

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第一回「全ての始まり」

その日もいつもと同じ一日になるはず、だった。
普通に学校行って、普通に勉強して、普通に遊んで、普通に家帰ってテレビ見て…
どうして、こんな事になってしまったんだろう。
あの日だって、いつもと変わらない始まりだったのに…

あの日の朝も、護は約束の時間を大幅に過ぎて家にあたしを迎えに来た。
「よ、おっはよう美奈。ガッコ行こ」護が得意の八重歯スマイルで笑いかけてくる。ふん、騙されるもんか。
「おっはよう、じゃないわよ。7:30に家っていつも言ってるじゃないの」
「ごめんごめん、家の前に1分間に500回くらい反復横とびするおばぁちゃんがいてさ、
 見とれてたら時間に遅れちまった。」
「…うそ。寝坊でしょう」
「ばれたか」護がペロッと舌を出す。こいつ、まったく反省してないな。
あたしは何も言わず、護の耳を思いっきり引っ張ってやった。
「いでででで!」
「あんたねぇ、つくならもっとマシな嘘を付きなさい!大体あんたは時間にルーズ過ぎるのよ!」
「仕方ねぇじゃん、アメリカ暮らしが長かったんだから」
「アメリカ関係ない!」
そう、こんな風に一日が始まって、そして終わるはずだった。
…あいつが現れるまでは。
突然、近くで数百発の花火が一気に炸裂したような、耳をつんざく轟音とともに、地面が揺れた。
「うわぁっ!」
「きゃあ!」
急に起きた凄まじい振動に、あたしたちは立っていることが出来なくなり、思わずしゃがみこんだ。
揺れは、容赦なくその激しさを増していく。
「あれは…?」
ふと見ると、学校のほうから、光の柱が立ち上っている。揺れが激しくなるとともに、光も、どんどん強さを増していく。
余りの眩さに、視界が真っ白になる。

光と振動。やがて、静寂。あたしはうっすらと目を開けてみた。
うそ。学校のほうから、まるで噴火したみたいに煙があがってる。
「学校のほうだ!行ってみよう!」護に手を引っ張られながら、あたしは学校に向かった。

学校に着いたとき、あたしたちは自分の見たものが信じられなかった。
学校が、なくなっていた。あたしたちの学校が。跡形もなく。
あるのは荒涼としたクレーターだけ。まだ煙がもうもうと上がっている。
「これは…」呆然とするあたしたち。何が、どうなってるの?
「見ろ、煙の向こうに誰かいるぞ!」護が言った。
「ふむ、次元移動のパワーを制御しそこなったか。私もまだまだだな。」
呟きながら煙の向こうから現れた人影…そいつはどう見ても、「こっち」の人間じゃなかった。
紫色のごつい甲冑を着込んで、右手には自分の身長の2倍はある巨大な剣を
携えている。
「お前は…」さすがに護もただならぬ気を感じて、たじろいでいる。
「おぉ、君は護君だね、そちらは美奈ちゃん」甲冑は、姿に合わない柔らかい声だった。
「お前…何者だ!なぜ俺たちを知っている!」
「おっと、これは失礼。私はヴァイマール・リーヴ。以後お見知りおきを。」
「ヴァイマール・リーヴ…」
「それとも、キング・ドーンの息子といったほうが分かりやすいかな?」
「!キング・ドーン!」あたしも護も、声を失った。
キング・ドーン。一年前、魔界「オーダイガ」に「次元移動」してしまったあたしたちと戦った
最強最悪の魔王。思い出すだけで背筋に戦慄が走る。
「親父の、敵討ちってわけかい。」護も、少し声が震えてる。
「仇?あぁ、そんなことはどうでもいいんだ。ただ親父を倒した奴のいる世界って
 どんなだろうと思ってね。でもちょっと期待はずれだったかな。親父もこんなクソ弱いガキにやられるなんざ、もうろくしてたんだなぁ、あはは」
「誰が…誰がクソ弱いガキだっ!」奴の一言が護の怒りに火をつけた。
「言わなきゃ解んない?君のことさ」
「なめるなよ…ガキかどうか、試してみな!!はぁっ!」地をけって、護はリーヴに向かっていく。
「うざい」リーヴは、左手をひらつかせた。
その途端に突風が巻き起こり、護はまるで紙のように吹き飛ばされて、校門に叩きつけられた。
「ぐはっ」護はずるり、と崩れ落ちる。
「護!」あたしは護にかけよった。
「ん。弱い。美奈ちゃん、君から彼に言っておいてくれないか。君は弱すぎる。
もっと強くなったら相手してあげてもいいよって言ってたって。んじゃ、
彼が強くなるまでこの世界暇つぶしにちょっとずつ潰していくから」
リーヴは柔らかな声でそう言い残し、姿を消した。
後には、あたし、護、そして世界崩壊の危機だけが残っていた。

       

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