Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      


「らめぇ~! お尻はらめなのぉおおお!!」
女が、江川の前で獣じみた嬌声をあげて腰を使う。
その刺激的な情景とは裏腹に、江川は自分の心がどんどん沈んでゆくのを感じていた。
今日は夕刻から、江川のバンド『スカトロ』のライヴがあった。
ジャンル的には、ハードコアの部類に入るバンドだ。
酒の入っていた江川は、暴動のようなテンションの中で客と共に暴れ狂った。
そして、ライヴの打ち上げの後、こうしてファンの一人をテイクアウトしてきた訳だが、江川はまるで薬が切れたかのように心が冷めきっていた。


尾藤は姿を消す前、江川にだけ一言、メールを送ってきていた。

『スマン』

たった、三文字のメールだ。
最初、江川はそれが何を意味するのか、分からなかった。
いや、分からなかったというのは嘘だ。
その直前に、尾藤の犯される写メを受け取っているのだから。
しかし、江川はそれには触れず、
『何が?』
と、すっとぼけた返信を返した。
メールは、それきりだった。
それを境に、尾藤は街から姿を消した。
思えば、あれは尾藤からの最後のSOSだったのではないか。
この街から姿を消す前に、自分にだけは引き止めて欲しかったのではないか。
あれ以来、メールをしても全て返ってきてしまう。
電話も繋がらない。
尾藤と江川を繋ぐものは残っていなかった。
口惜しかった。
何より、無神経だった自分に腹が立った。
その腹立たしさを紛れさせようと、酒もライヴも女もやったが無為に終わった。
ああ。
やはり駄目だ。
この悔恨を晴らすには、『ヤンキー掘り』を血祭りにあげる以外に術は無い。
それが、今、江川に出来る唯一の贖罪だ。










セックスを終えて、江川はラブホテルから出る。
そこで、ふと見覚えのある顔を発見した。
「堀……? お前、あの堀か?」
江川がそいつの名を呼ぶと、そいつはびくりと肩を震わせた。
間違いない、堀だ。
あの、見ると嗜虐性を刺激させられる、小動物のような風貌。
確か、こいつは一年前に松野に掘られてから不登校になり、そのまま休学だか退学だかになっていた筈だ。
まさか、こんな所で再会するとは。
堀の方も意外だった様で、その死んだ魚のような目が、江川を釘付けにして離れなかった。
「知り合い?」
傍らの女が江川に尋ねる。
「いやぁ、去年まで俺らのパシリだった奴。 ちょっちイジり過ぎちまって、不登校になってたんだけどよ。 相変わらず、根暗そうな面してんなぁ」
揶揄するように言ってから、ふと江川は気づく。
尾藤、久坂、村井、松野、そして、自分。
尾藤が掘られた写メールが送られてきた面子。
これは、堀が松野に掘られた時、ちょうどその場に居合わせた面子と重なるのではないか?
いやしかし。
まさか、こいつが――――――?

「おい、堀。 お前、『ヤンキー掘り』って、知ってるか?」
堀は、答えない。
「『ヤンキー掘り』? 何それ?」
女が聞いてくる。
「この間、俺のダチが通り魔に会って、ケツを掘られた。 その犯人を捜してる。 おい、堀。 まさか、お前の仕業ってこたぁねぇよなぁ?」
堀は、答えない。
堀は、小刻みに震えているようだった。
「ほら、やめなよ。 その子、ブルってんじゃん」
「お前は黙ってろ。 なぁ、堀―――――――」


「お前は、もう少し後のつもりだったんだけどな」

堀の声色が、変わった。
江川の知る堀の声ではない、険のこもった声色。
しかし、元パシリに“お前”呼ばわりされて、黙っていられる江川ではなかった。
「ああ? テメェ、誰に向かって口利いてやがん…」

























       

表紙
Tweet

Neetsha