Neetel Inside ニートノベル
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ナンパの哲人
二千江

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 二千江は学部の中で専ら有名だった。彼女の名前がニーチェからそのまま取った安直な名前であり、またそこから彼女の父親のニーチェに対する崇拝ぶりが伺えることから初めてその名を聞いた人の一笑を買わずにはいられなかった。哲人も最初彼女に話しかけたのはそういった動機だったが、しかし彼女の方はすっかりそういった話に慣れているのか超然とした話しぶりだった。彼女は実家にニーチェの本が並べてあって昔からどんな人だか気になっていたけど大した人じゃなかったとあっさり言い放った。
 哲人はそんな彼女の毅然とした態度に惹かれていた。たいていの学生は自分の専攻する人物や主義に振り回されているものだったが、彼女はその中で哲学者然としていた。

「恋愛の機能って何だと思う?」

 彼は神の機能を看破した人物と同じ名前を持つ彼女にそう尋ねた。彼が予め考えていたのはセックスを持続させる機能だとか、カップルを拘束する機能だった。しかし彼女はこう答えた。

「精神の充足でしょう、セックスが肉体の充足なんだから」

 彼女にそう平然と答えられて彼は怖気づいた。その時彼には無限にも思われていた恋愛という感情が一気に体中に収束していくのを感じた。

「それじゃあ君は永劫回帰を信じる?」

「何であんなもの?くだらない、もしそうならば退屈でしょうがないじゃない」

 彼女にこう言われると哲人は自分の肩が萎れていくのを感じた。彼は限定されたあるものとあるものの間の運動は永久に続くのだというその思想を信じていた。そして彼は常日頃それを恋愛にあてはめてはそれが永遠に続くものだと考えた。しかし彼女にそう言われた今となってはそれが一時の精神を充足させるものでしかないのだと実感したのだった。その時彼には彼女がまるで超人のように見えた。

 しかし彼女は永劫回帰を否定したものの、それ自体は信じていた。そして彼女は精神や肉体の充足によってその退屈を乗り越えられるものだと信じていた。彼女がそれを否定した瞬間までは彼女の精神は充足していたのだった。

       

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