Neetel Inside 文芸新都
表紙

長男やめていいですか?
第1話『無難な日常の始まり』

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 「早く起きなさ~い!」
下の階からいつも通りの母親のデカイ声が聞こえる。
「ああ、そうか今日から新学期か」
春休みボケが取れずに重い体を起こし、眠い目を擦りながら下に下りる。
 テレビではいつも通り朝のニュースがやっている。いつも俺より先に起きている妹がトーストにマーガリンも何もつけずに頬張っている。全く変なヤツだ。
 俺も焼けてはいるが若干冷めているトーストにマーガリンを、これでもか!というくらい塗りたくった。よく太らないな俺。
 テレビのニュースもスポーツコーナーをむかえ、そろそろ出発する時間となった。時計は7時30分を回っている。歯磨きをしようと洗面台に向かった。すると、親父が不機嫌そうな目をして起きてきた。起きてきて早々に嫌味を言われた。
「昨日の夜ガサゴソ何やってた。そのせいで眠れなかったじゃねーか。俺は会社で働かなきゃなんねーんだよ。お前みたいに遊んでられねーんだよ。」
そのとき俺は、あんたが眠れようがどうか知ったこっちゃねーよと思ったが、口に出すと厄介な事になりそうなのでやめておいた。
 ウチの親父は頭脳明晰、運動神経抜群と能力的には誰もが羨むヤツだ。が、しかし人間的には最低なヤツだ。理不尽でわがままで自己中心的で、もっと酷いのが人の幸せを妬むのだ。こんなヤツとウチの母親はよく結婚して堪えてるもんだ。ちなみにウチの母親は親父とは正反対だ。能力は平均的だが、理解力がある。それだけでも救いだ。妹もいるがコイツの事はまた今度詳しく話そう。
 歯磨きを終え、親父と顔を合わせるのが嫌だから、さっさと学校へ行ってしまおう。
 通学路を歩いていると、前方に友達を発見。朝の嫌な事を忘れるためにも話し掛けよう。
「チィーッス!千浩」
「おっ!二見じゃーん!元気してた?」
コイツは内田千浩(うちだちひろ)中学2年の時クラス替えで一番最初に親しくなったやつだ。容姿は少し背は低く、髪の毛は若干クセっ毛だ。まぁ、どこにでも居そうな中学生だ。
 おっと、自己紹介がまだだった。俺の名前は二見湊佑(ふたみそうすけ)。今学期から中学3年だ。受験の年ともなると憂鬱でならない。
「二見って高校どこ受ける?」
このフレーズには飽きあきしてる。春休みでも、友達とメールをしてても必ず一回は出てくる。
「う~ん。まだ決めてない」
「は!?マジかよ!?」
この言葉でいつも難なく避けてきた。外ではこう言ってるが、親父が市内での一番の難関校に行けと言われている。正直、行く気はないし俺じゃ無理だ。
 俺はこの14年間親父の過度の期待とプレッシャーに堪えて生きてきた。そう能力も高くはないのに
「俺の息子ならできる」
と勉強もスポーツもそう言われてきた。しかも気が付けばアイツは
「湊佑は東大に行けよ。俺は無理だったけど、俺の息子なら勉強すれば入れる。」
と決め付けていた。無茶もいい加減にしろよ。それに俺より妹の方が絶対にできる。勉強、スポーツ何においてもそうだ。
 「でも二見、頭いいからどこでも入れるだろ?」
このフレーズも学校に居れば、よく言われる。嫌じゃなかった。むしろこう言われるのは嬉しかった。これは偏見かもしれないが、『天才』と言われて嫌なヤツは、本当に天才なんだと思う。喜ぶヤツは凡人ってことだ。ウチの妹も『天才』と呼ぶと嫌がる。ケッ!!贅沢なヤツだ。
「まあな」
と自慢げに言っておいてやった。そうこうしながら千浩と歩いていると、いつの間にか学校に着いた。そこには新入生としか思えないようなブカブカの制服をきた俺らより小さい人たちがたくさんいた。
「ああ、今日からまた、退屈だけど楽しい日常生活が始まるのか」
と少しキザっぽく思った。

 教室に入ると、殆どの人がもう登校していた。
「オーッス、充。貸したゲームもうやった?」
「ああ、まあ少しだけ」
この若干反応が薄い男は春田充(はるたみつる)。コイツとも意外と仲がいい。容姿は背が高く、かなりの男前なのだが、少しうざったいロン毛とテンションの低さの為かあまりモテない。
 前に
「充、髪少し切ったら?そしたらモテんじゃね?」
と言った事がある。そしたら
「めんどくさい」
その一言で終わってしまった。たく何で俺の周りにはこう贅沢なヤツが多いのだろう。俺もそう言ってみてーよ(泣)
 ホームルームまでの時間、春休みどっか行ったかとか、そろそろ彼女欲しいよなとか、下らない話で時間を潰した。まあ俺は彼女ができるよりも親父が居ない方がもの凄く嬉しいんだが。この前も某ハンティングアクションゲームをプレイしていたら、急に部屋に上がりこんできてこう言った。
「お前ちゃんと勉強したのか?まぁ、してなくても東大に受かればいいんだけどな」
その瞬間俺のイライラゲージがピークに達しそうになった。しかし理性で抑えた。この親父とは喧嘩となると、命が危うい。なぜなら今年で43歳にもなるのに、ジムでベンチプレスやらなんやらで、筋力がもの凄く強い。確か100キロやそこらを上げられるとか、上げられないとか。
 ホームルームの時間も近づいてきて、親父の事は忘れて席についた。
「あ、お、おはよ」
「ああ、おはよ」
今さきに声をかけてきたのは隣の席の戸田亜美(とだあみ)だ。この人はそこそこ可愛い。いや可愛い。俺のストライクゾーン真ん中やや高めくらいに入る。それに俺は席替えの時に戸田が隣と決まったとき、特に好きではないが若干心の中で喜んだ。念には念を押すが、今のところ戸田のことは好きではない。
「ねえねえ、春休み何してたぁ?」
戸田も他の人と同じような質問をしてくる。俺も同じように返してやる。
「する事がなくて退屈してた。戸田は?」
「ウチは遊んでばっかいた。昼も夜も(笑)」
ああ、楽しそうですね。昼は平和だけど、こっちは夜、親父の機嫌を損なわないようにと必死でしたよ(泣)というか戸田。お前容姿が整ってるんだから、俺みたいな男じゃなくて、もっとイケメンとかとそういう話しろよ。俺に好意を寄せてるって勘違いするからな。勝手に思い込んで勝手に落ち込むバカだからな。俺は。
 そうこうしているとホームルームの時間を知らせるチャイムが鳴った。俺はこの瞬間が一番好きだ。なぜなら、これから家に帰るまでの平和な時間が続くからだ。普通の生徒は嫌な時間だと思うかもしれないが、俺ではなくウチの親父が特別すぎるからこのチャイムが一番好きだ。夜まで平和を楽しむぞ。俺。
 しかし、そうも続かなかった。今日は登校初日で明日のテストの事も考慮してなのか、午前中で学校が終わった。少し焦った。今日の時間割を見てきてなかった。どうしよう。いや、落ち着け俺。親父は夜に帰ってくるんだ。夕方の6時くらいまで友達と時間を潰せばいいじゃないか。
「お、おい千浩、充どっか行こうぜ」
正直充には期待してない。どうせ「疲れた」とか「金ない」とかで来ないだろう。
「別にいいよ」
予想外。二人ともOKした。
「どっか遊び行くの?俺も連れてって」
この唐突なヤツは村中拓人(むらなかたくと)。背は俺と同じくらい。髪が茶色で(地毛だ)パーマをかけてるから、髪形がダルビッシュみたいになってる。
「じゃあカラオケ行こ」
またまた予想外。充が提案してきた。まあ行くとこないしそこでいいか。金大丈夫かな。
 カラオケで2時間ファミレスで1時間ゲーセンで2時間くらい時間を潰して家路についた。今5時47分。親父が帰ってくるのにあと1時間ちょっと。都内の会社に行ってるのに6割近い確率で7時までには帰ってくる。しかし週末は殆ど飲んで帰ってくる。毎日飲んで帰ってこいよ。
 今日は帰ってくるのが遅かった。残業だそうだ。愚痴を言いながら飯を食ってる。とばっちりが来ないうちに自分の部屋へと戻った。明日はテストだし。少し勉強して、寝るか。
 なぜだか今日は勉強がはかどった。時計は10時30分になりそうだ。携帯を確認するとメールがきていた。メールをしてたらあっという間に12時になっていた。今日はもう寝るか。下では親父がテレビを観ている。今日の夜は平和だったなぁ。良かった良かったなんて事を思っていると、5分経たないうちに眠りについてしまった。

       

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