Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      


 一、火属性、地属性の魔法錬金について。
 火属性をAとするとき、地属性をBとする。
 B20=A10の鉱石を錬金するとき、2Ax=5Bxの鉱石があったとして過不足の値を求めなさい。

 アリスは睨むように教科書を見つめた後、ユウトの袖を引っ張った。

「(なんだ)」
「(わからないわ)」
「(は――?)」

 この場合はxに4か5を代入して足りない数値、多い数値を出せば答えだ。
 しかし、アリスは全く手詰まりといった様子で教科書を羽ペンでつついている。

「ミス・レジスタル? どうしたのです、早く降りて来なさい」
「今、行きます」

 アリスはユウトの背中を借りて黒板の前まで降りてきた。

「ねえねえ、あれがアリスの使い魔なんだよねえ?」
「ああ、けれどあれじゃ使い魔が逆に可哀想だよ」
「イスムナで生きていられただけでも僥倖だっていうのに」

「ほんとね、あれじゃどっちにいても不幸なだけだわ。
 あんな駄目なメイジに召喚されてしまったんですもの」

 明らかに聞こえる陰口を背中に、チョークを持ったアリスの左腕が公式を書く。
「(どうした? まだわからないのか)」

 ぴたりと最後のxを書いたところでアリスの腕が止まっていた。

「(わからない……)」
 ユウトは仕方なく答えを教えてやろうと思った、その時ユウトの顔に雫が落ちた。

「(ば、泣くことないだろ? 俺、答え知ってるから安心しろ)」

「ねえ、あれってもしかしてわからないのかしら」
「ま、所詮はアリスだからな」

 アリスの震えた唇がわずかに開いた。
「……わかりません。ミス・マジョリア」
「まあ、あれだけ大口を叩いておいてわからないのですか?」
「すみません」

 アリスはユウトの後ろで覇気を失った。ユウトはすかさず口を開いた。

「あ、アリスの代わりに俺が答えることになっているんです」
「? そうなんですか? ミス」
「え?」

 ユウトはアリスからチョークを取ると続きの方程式を綴っていく。
 昔、黒服の老人がこれと同じ問題をユウトに出していたことを覚えていたのだ。

 黒板に二通りの答えを書いた。
 合っている自信は五分五分だが、元の世界でそろばんが得意だったユウトには自信が少しあった。

「どうでしょうか……」

 減らないチョークを置いて、ユウトがマジョリアを見る。
 一呼吸置いた後にマジョリアは大きく口を開けて言った。

「……大正解です!」
 一瞬しんと静まった教室。ぱらぱらと拍手が起こる。
 拍手を送っていたのは他でもないスーシィだった。皆がそれにつられて拍手をしだす。

「使い魔、お前すごいな!」
「優秀だ!」
「いいぞ、使い魔!」

 喝采になった教室でユウトは照れながらアリスを連れて席へもどる。
「えへへ、どうも」

 
「しかし、驚きました。ミス・レジスタル。
 まさか使い魔に魔法学まで教えているとは、これはあなたの功績でもありますよ」

「え?」

 アリスは何故といった調子で先生に褒められる。
 ぽかんとした様子でユウトを眺めるアリスを蔑める生徒は一人もいなかった。

       

表紙
Tweet

Neetsha