「ユウト。あの使い魔専用の食堂はそんなに酷いものだったの?」
「食べられるものなんか出ないよ……」
スーシィにとっては興味を惹かれる内容だったのか、一度見てみたいわねなどと言い出した。
「ところで、ユウト。これからちょっと手伝ってもらえるかしら」
珍しくスーシィの方から頼み事がかかり、ユウトはスーシィに付いて行き、ある一室へとたどり着いた。
「まあ、ここは誰にでも開放されてる調合室みたいなものね。器材は揃ってるし、多分いけるわ」
そこには一切の飾り気はなく、じめっとした空気がひっそりと流れていた。
廊下の空間からは明らかに異質な空気のせいで、
近寄る生徒もなく、また部屋にいるのはユウトとスーシィの二人だけだった。
がちゃがちゃとガラスものを設置していくスーシィ。それをユウトはただ黙って見ていた。
「準備できたわ。内容を説明するから聞いて」
スーシィが言うにはこの大がかりな調合が、アリスの脚を治す薬を作るためのものだという。
「じゃあ、そっちからそのお皿に一杯汲んでこのビンへ」
ユウトはどうして自分がこんなことをしているのかわからないまま、指示に従った。
――――。
作業は三刻近くに及び、過程の中では同時に行わなければ成功しないようなきわどい作業がいくつもあった。
「おつかれさまユウト」
スーシィはそういうとユウトにポークチョップを渡した。
「本当はだめなんだけれどね。内緒よ」
スーシィが魔法をかけると香ばしい肉の香りが部屋に広まった。
「おお、うまそう」
「出来ることなら食堂に招きたいのだけれど、特別な時以外はどうしても駄目らしいの」
ユウトは肉にかぶりつきながら相づちを打った。
「仕方ないか……」
はいとスーシィは小瓶を差し出した。スーシィの手のひらに乗るそれは銀色の液体が詰められた瓶だった。
小指ほどの小さいそれをユウトは受け取る。
「え、でもこれはスーシィが作ったものだろ?」
「きっと使い魔のユウトが手伝ったと知れば、彼女の態度も変わるはずよ」
「でも、スーシィが作ったことはバレるんじゃ……」
「いいのよ、ユウトも手伝ったっていうことが重要なの」
スーシィはそう言うとマントを翻して行きましょうと言った。