「お鍋、見て」
「ああ、そろそろいいかな」
蓋を開けると蒸気から豚汁の良い香りがした。
「俺って天才」
「あたしって天才」
互いにガッツポーズをつくる。変なところでリースはユウトの影響を受けたようだった。
「どれどれ」
ユウトがお玉でかき混ぜていると、何やらオリゴ糖のような液体が、つつつと鍋へ投入される。
「リース。甘さを出すならはちみ――」
隣のリースが垂らしていたものは口の杯(さかずき)のものだった。
「ぎゃああ――、口、くち」
椅子の上からリースを担ぎ上げて地面へ下ろす。
その間もずっと垂れ続ける唾液は鍋から見事に架け橋を作っていた。
「ちょ、ちょっと凄いな」
感心している場合じゃないと自分に言い聞かせて、ユウトはリースの口元を拭ってやる。
――べちゃ。
リースの口から切れた唾液の橋が落ちて床で太鼓を打った。
「さ、さあ、食べようかあ」
こくこくと頷くリース。
こうしてリースの唾液入りトンスープが出来た。
リースはあっという間に三杯もおかわりをした。
よほどおいしいものに縁がなかったのだろう。ユウトは自分がおかわりしたいのを我慢して、リースが食べた。
その勢いたるや、華奢な体の一体どこに入っているのか不思議なほどであった。
ごちそうさまから後片付けまでが終わると意外な訪問客があった。
「ユウト、ちょっと」
白みがかった髪を舞わせるのはアリスだ。食堂を出たところでアリスは振り返った。
「なんだ?」
「明日の夜、使い魔同士の決闘をすることになったわ」
「ええ?」
ユウトは狼狽えた。いくら復帰したからといって決闘とは穏やかではない。
「なんで、どうして」
「――っうるさいわね。なんでもよ」