Neetel Inside 文芸新都
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「本当に――魔法を、使った……?」
 月明かりの下。カインの少年は足下から隆起する土を前に命令した。

「targetal (標的指定)」
 杖でユウトを指す。
 すると土の塊は意志を持ち形を得たように腕と脚を削りだし、
 前進すると共に騎士の身なりに変身する。
 
 ユウトは苦戦を強いられていた。
 全くと言っていいほどユウトにはリースを傷つける気持ちがない。
 ユウトが戦って来た相手はほとんどがモンスターだ。

 しかし、目の前のような少女を倒そうと思ったら生半可な気持ちでは倒せそうにない。
 それはつまり、命を奪う覚悟で臨まなければ彼女には勝てないということ。

「ッ――」
 しなやかな手首から放たれたのど元への一撃をユウトは皮一枚を持ってして回避する。
 それは最小限の動きであり、ユウトはリースの手首を払うようにして剣の柄を当てる。

 しかし、リースの短剣はまるで蛇のように手中の内に回転し、手首を守る。
 刀身が広い短剣はユウトの打撃を難なく防いだ。

「ユウト、逃げるわよ!」
 アリスの声がした。
 だが、リースと距離のない一瞬でユウトに逃げ道を確認する余暇はない。

 ユウトがリースから間を置こうとしたとき、第二の敵がいることに気がついた。
 ぼこっと音がした地面より先にユウトはその身を空中へ逃がす。

「……」
 やっとの思いでたたらを踏んだとき、リースが襲い来る。
 リースの背景は黒だった。そこでユウトはようやく違和感の正体に気がついた。

 ――ギン。
 空中に舞う紫色の鱗粉。
 リースの髪からマナの力をわずかに感じるユウトはすでに絶体絶命を知った。

「ユウト! 何してるの!」
「言ったろう、アリス。
 絶対に勝てないって。何故だか教えてやろう、
 お前の使い魔は今、幻覚によって五感をなくしつつあるんだ」

 アリスの声の先は正面からだ。
 しかし、カインの声は後ろから聞こえる。

 先ほどまでアリスは確実に後ろにいた。既に聴覚は犯され始めている。
 だが、即効性があっても幻覚の力が弱いのはリースがセーブしているせいじゃないだろうか……?
 ユウトは頭の隅で思考を巡らせた。

 無音でリースの剣とユウトの剣が交わる中、土くれの剣士がユウトに突進してくる。

       

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