ユウトの頭にもたげてきた疑問はただそれだけだった。
「アリス!!」
ユウトは目一杯叫んだ。幻覚を吹き飛ばす勢いで。
「お前が望んだものは、そんな逃避なんかじゃない!
それはお前が一番よく判ってるはずだろう! じゃなかったら何で俺がこんな目に遭うんだよ……ッ!
お前が望んだことは……」
ユウトはリースの哀愁に満ちた剣を受け流す。土塊の攻撃を躱す。
“お前が望んだことは、お前にしかわからないんだぞ!”
長い一瞬が訪れたように思えた。
ユウトは唇が噛み切れるほど食いしばって幻覚に犯されながら戦う。
ここで負けたらアリスは本当の意味で自分の心と目的を無くしてしまう。
本当に何かの復讐だけに、後悔だけに囚われ続ける道を歩んでしまう。
「(私が……望んだこと……)」
確かに強い使い魔はほしかった。
だからユウトを見た時、何となく訓練所に送ってしまった。
自分を見ているようだったから。
弱く、何の力も持たない自分を識った気がしたからだ。
「(でも……)」
ユウトが剣を振り続ける。
リースの攻撃と土塊の騎士の攻撃をひたすらにぼろぼろになっても立ち上がってまた前を見る。
「(……)」
何の力も持たない。
それでも、立ち向かう姿を私は見たかったのかもしれないと、
そう思った時、アリスの身体の内で何かがすっと降りていくような心地がした。
「ユウト!」
アリスは目尻に熱いもの、生まれて初めて感じる感情に突き動かされて叫んだ。
「ぜったい……勝ちなさいよ!」
諦念でも達観でもない、今のユウトの姿が自分の思い描いた心の内なのだと。
アリスは強く感じていた。
月明かりの下でユウトは確かにその言葉を聞いた。
「な、なにを言ってるんだ。どう考えたってお前の使い魔はもう……」