「ユウト、こっちへ」
スーシィが手を引いて歩く。
アリスが目の前に現れてはっとなった。
目を瞑ったまま、アリスは蒼白な顔をしている。
「アリスはどうしたっていうんだ……?」
静かに首を振るスーシィ。そばにいたフラムが、静かに口を開いた。
「今日、このことは学園生徒に漏らしてはならん。ユウト、ミス・スーシィも一先ずはもう休みなさい」
後ろを振り返り、
「お主らもこんな夜更けに大儀であった」
フラムは先生達が帰った後、抱き上げたアリスをユウトに預けて言った。
「このことは追って追及するとしようの」
そう言い残してフラムはそれでも少し嬉しそうに笑って消えた。
――――。
アリスの部屋でスーシィは小さく言った。
「私、この部屋に初めて入ったとき、なんだか不思議な感じだった」
「なにが」
ユウトはアリスの額に滲む汗を拭く。
「ほら、この年頃の女の子って愛だとか恋だとか、
美味しいものが食べたいだとか、綺麗になりたいとか、そういうことに興味が向かうじゃない。
でも、この子の部屋は何にもない。あるのはそこの本棚の書類と本だけ。
きっと、ユウトの――」
「言わなくていいよ」
スーシィは華奢な手に力を込めて、
「ううん、言わせてもらうわ。
その書類はユウトの返還要請書と依頼取下文書。少なく見積もっても三、四年分はあるでしょうね。
そしてこの子は私やユウトよりもずっと短い時間を生きることになる。
その短い時間の中でこの子が求めていくものはユウト、あなたがこたえてあげて」
スーシィは立ち上がって扉へ歩いた。
「ああ……でも、それは聞かなかったことにするよ」
「ええ、おやすみ、ユウト」
静かに、スーシィが退室した。