「ええ、私の研究が見たかったんですって。
どうせ好奇心だろうから断ってやったわ。
それよりその本は?」
「そう。立ち話も何ですし研究室に行きましょう」
部屋に残されたユウトとリースは一息ついた。
「これだけ綺麗にすれば充分だろう」
「うん」
バケツにたまった泥水を捨てるためにユウトはバケツを持って廊下に出た。
「うわっ」
ユウトは危うく泥水をひっくり返すところだった。
なんとか持ちこたえてその姿を確認する。
見ると部屋の前に少女が立っていた。
「……し、シーナ?」
優しい双眸が驚きに変わり、まるまるとした目がユウトを見つめる。
それは紛うことなくシーナの姿だった。
シーナは何も言わずにユウトをそっと抱きしめる。
「ああ……ユウト」
「シーナ、シーナなんだよな?」
ユウトの胸の中で何度も頷くシーナ。リースはその姿をそっと後ろから睨む。
「ど、どうしてここに?」
「それより早く場所を変えましょう。
きっとあの子、ユウトと私のこと知っていたに違いないです」
答えるよりも早くユウトの手を握って歩き出すシーナは二歩もいかないところで抵抗を感じた。
「ユウト?」
見ると後ろでユウトの袖を握る女の子がいた。
「(……もしかして、メイジの人なのかしら)」
シーナは一瞬そう思ったが、それは違うとすぐにわかった。
首元にルーンが刻まれている。使い魔だ。
「放して貰ってもいいかしら?」
リースは首を横に振る。
「だめ……」
「え? あなたは使い魔でしょう?
どうして放してくれないんですか」
リースはユウトをじっと見て言った。
「ユウトは私の大……事な人だから」