「あ、危なくないか? さっきからこの部屋にはモンスターがいないみたいだけど、
確実に他の部屋にはいるぞ」
「私も反対です。こんな暗がりでは戦いに向いていません」
ユウトとシーナの意見にスバルはふふんと鼻をならすと、
ペンのような杖を片手に長い詠唱を唱え始めた。
「……sha fhula!」
ぶわっとアリスの杖先の光りがスバルの杖へ動き、光りの粒子が飛び散った。
すると部屋一帯を明るく醸し出す。
「す、すごい……」
「うわぁ……」
「……」
アリスは口をぽかんと開けて、すぐに口をへの字に曲げた。
「そんな魔法があるならさっさと使いなさいよ。
さっきまでひたすら照明の魔法を使ってた私が馬鹿みたいじゃない!」
先輩への口の利き方も褒められたものじゃないが、アリスの言うことは一理ある。
「いや、この魔法は一人じゃできないんだ。
そばに光りの魔法がないとうまく発動しないんでね」
部屋の広さは奥行きが50メイルほどもあるようだった。天井は4メイルほど。
「結構広いわね。あっちに穴が空いてるわ」
アリスが指した方向には確かに穴のようなものが見えた。
ユウトも他の出口を探してみるが天井に空いた穴以外は特に見あたらない。
「…………」
「アリス、危険だ。やっぱりやめよう」
ユウトは一つの事実に気づいていた。
これだけ大きなダンジョンにも関わらず、足跡が全くと言っていいほどないのだ。
それはつまり、誰もまだ踏み入ったことのない未開拓のダンジョンという結論にはならないだろうか。
シーナもそれに気づいたのか神妙に言った。
「あ、アリスさん。やめませんか?
このダンジョンどう考えても未開拓ですよ。
そういったダンジョンで命を落とすラジエルの戦士だって……」
シーナが控えめに言う。アリスはじりと歩を止めた。
「……悪いけど、ここで行けないなら私とあんたの関係もここで終わりよ」
「アリス、そういう言い方は――」
「ユウトは黙っててッ」