Neetel Inside 文芸新都
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 アリスの先へ移動すると、二人で徐々に前へと進む。
 光りが見える範囲はわずかに三、四メイルだ。
「苦手だ……」
 このような暗い場所で、もしも最初の一打を受けるとしたら、
 必ずこちらがその一打を後手にまわって受けることになる。
 躱すわけにはいかない。後ろはみんながいるのだ。

 ざくりざくりと足音だけが耳につく。
「……っ」
 いよいよ暗がりに入りきったが気配は感じない。
 それだけにユウトの緊張は続く。
 ダンジョンの捕食者たちはその密室で狩りをするが故に、気配を完全に殺すからだ。

 スバルが詠唱を始めた。
 先刻の部屋全体を明るくするものだろう。
「(……まだなの?)」
 ユウトの緊張がアリスにも伝わったのか、アリスは捻りだした声を潜めた。

「……sha fhula!」
 ぶわっとアリスの杖から光りの粒が空中へ霧散する。
 それぞれが意志を持ったように部屋の中を駆け巡り、一息のもとにその暗闇を輝かせた。
 その部屋は先ほどのように拓けていたが、奥行きがあまりなく、行き止まりのようだった。

「ね、ねえ……あれって、魔石じゃない?」
 アリスの指さした先には紫色に輝く石があった。
「本当だね、珍しい!」
 スバルもそれを見て驚嘆する。
 石は洞窟の壁にぎっしりと輝いていた。
 そしてアリスはあの石をよく知っている。

「エレメントの結晶っ、エレメンタルよ!」
 モンスターの驚異は幸いにして無いが、ユウトは素直に喜べない。
「凄い、これ全部持って帰れば大金よ。大金が手に入るわ!」

 一人浮かされ声で騒ぎ立てるアリス。
 禁忌の呪文書だとか、禁断の魔法書のだとか騒いでいる。
「何かの罠かもしれない……」
 スバルがそう言ったのも束の間、アリスはエレメンタルに向かって駆けだしていた。
「まてっ! アリス」
 ユウトの静止の声も耳に入っていない。
 アリスとの距離が数メイル離れたところで、突如地響きが襲った。

       

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