Neetel Inside 文芸新都
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 シーナはその表情を険しくした。
 微量なマナを扱うというのは精神力が高くなければ到底難しくなる。
「(私が三日かかった魔法を不完全だけど、一回で成功させるなんて……)」

 逆にアリスはシーナの驚異的なセンスに驚いていた。
 この魔法は大気中の練り上げ可能なマナの幅が例えば百だとすると誤差一以下の量で練る必要がある。

 それをスペル音調と口頭の説明だけでおよそを把握したシーナの魔法感覚は天才のそれだ。
「二人とも、時間がない。成功しそうか?
 すまないが、僕と彼で耐えられる時間はもう長くはない」

 スバルが慌てた調子で言う。
「ええ、大丈夫よ……」
 アリスは何故だかシーナを信じてみようと思った。


 ユウトの剣が削られ瞬く。
 二体、三体と立て続けに襲ってくる。
「――っ」
「karushri owrd!(光りの守!)」
 ユウトが捌ききれない敵はスバルが防ぐ。
 敵は完全に調子を戻しつつあった。
「スペルジャムが始まれば、大きい魔法は使えない。
 そうなったら僕らは終わりだ」

 ぼんっ。
 シーナがまた失敗する。
「……」
 アリスは黙って自分のスペルを唱え始めた。
「hyeli isscula(火花)」
 ばちばちばちっと徐々にアリスの杖に白い光りが灯る。
 シーナはそれを何かに似ていると思った。
 そう、昔ユウトが自分に話してくれた何か。

「スバル先輩、後どれくらいいけますか」
「三分か……いやだめだ、もう彼が危ない」
 ユウトの動きは限界点に達していた。
 何十という束を相手に土埃を立てながら戦っている。
 もうスバルの介入するタイミングすらなくなっていた。

 あんな動きは何分と続きそうにない。
 剣などもうほとんど使っていないのではないか?

 アリスがそう思った時だった。
 ガキンッ。
 甲高い音がしたのと同時にツェレサーベルの刀身が根元から折れた。
「くっ――」
 まさにその時、同時にアリスの横で光りが灯った。

「ユウト! 下がって!」
 ユウトはルーンから直接響くアリスの声で、後ろへと転がるようにして戻った。
 スバルが即座に詠唱を始める。
「Lawai yurea iruky――」

 敵は転がり戻ったユウトの音を追ってのそのそと近づいてくる。
 どうやら襲いかかる瞬間だけ跳ねるらしい。
 シーナの方をユウトがちらりと見やると何やら不思議な状態でその魔法は完成していた。

 シーナは自身の髪の毛を一本つまみ持ち、その先に杖を結んでつり下げていた。
 微量のマナを髪の毛一本に通すことで安定化させているのだ!
「……どうです? 似てませんか」「ああ、閃光花火だ」

 ユウトは背中でそう答えて、迫り来る敵へと構える。
 サンドワームがスバルの目前、およそ二メイルと迫ったところだった。
「sha flare!(光のフレア!)」
 アリスとシーナの光りは爆発的に増幅し、二人はぎゅっと目を瞑った。
 目映い光りがユウトとスバルを飲み込み、空間を瞬く間に埋め尽くす。

 ギュアアアアァァ――――。
 モンスターたちの断末魔が、光りの中から聞こえてなくなった。


       

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