Neetel Inside 文芸新都
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「ダブルワンド……」
 スバルはこれを出来るかと聞いてきた。まるで、当然のことのように。
 アリスはおもむろにマントの内ポケットから杖を取り出す。
 あのジャポルでの事故以来、いつも常備しているスペアだ。

「軽く練習していこうかしら……」
 役に立つわけではないのだが、考えれば考えるほど今回の事件は本当に危なかったと言える。
 もしも、あれが不器用なカインだったら確実に全員死んでいただろう。
 得意の泥騎士を出したところで、あの数を前にしてはたかが知れている。

「(出来るに越したことはないのよ)」
 アリスはマナ的にはまだいけると思う。何よりクエストが物足りなかった。


 アリスはしばらく廊下を進んだところで、その突き当たり七六七という壁を前にした。
 そこは授業以外で入ると、直接学園の外へと繋がる不思議な壁だ。
 壁には薄茶色で「767」と書いてあるので、アリスはここを『七六七の壁』と呼んでいた。

 外へ出るだけならここからだと随分と早い、アリスだけが知るであろう裏道だった。
 壁に触れると、アリスはすり抜けるように外へと出る。

「寒いわね……」
 そこは学園の裏庭、アリスは辺りに誰もいないことを確認して安堵する。
 暗くなり始めていた空を見上げて、両手に杖を構えてみるが、どうにもいまいちだ。

「どうやっても格好つかないのね……」
 見た目を取ることはやめて、アリスは詠唱を始めた。
 右手と左手の先にマナを同時に集める。

「っ――!」
 アリスの眉がつり上がる。大気のマナが打ち震え、白色の髪が風を仰ぐようになびき出した。

「le――……――or――」
 もはや、自分でも何を詠唱しているのかわからないほどの詠唱速度を紡ぎ出す。
 やがてそれは副音声のように木霊した。
 マナのバランスを意識しながら、練り上げたマナを一気に現象へと変換する。

「「hyeli isscula(火花)」」
 両手の杖に確かな手応えが走る。

       

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