アリスは一瞬、自分が成功していることに気がつかなかった。
授業ではあの学年一と謳われるフラムの孫でさえ、この技は出来ていなかったはずだ。
「や、やったわ――!」
自分が怖くなるのと同時に何か言いようのない優越感が沸いてくる。
たかだか一回でここまで出来るなんて私って天才じゃないかしら、と思ってしまう。
「やったぁ――!」
嬉し涙なのか何なのか、アリスの視界は徐々にぼやけて切り替わった。
「……ス、――リス? アリス、起きなさい」
「や――っえ?」
スーシィの声に目を覚ました。
大きな月が窓から覗いている。九と半の刻を指した時計が端に見えた。
「私――」
「覚えてないの? あなた階段から落ちて意識を失ってたのよ」
アリスは辺りを見回した。
階段の踊り場、あと半分降りると夢にあった七六七の壁へと続く廊下に出る。
「どれくらい眠っていたのかしら」
「さあ、見つけたときにはもう倒れていたんだもの」
子供の身なりをしていても、スーシィからは大人の雰囲気が漂っていた。
「立てる?」
「ええ」
アリスが立つとスーシィの顔を見下ろすようになる。
紫色の目はマナを帯びているように見えた。
「今日の研究はもうだめよ。寝なさいアリス」
「言われなくたって寝るわよ。マナの使いすぎかしら」
アリスはスーシィに見送られて踊り場を後にした。
アリスの長い巻き毛が見えなくなると、スーシィは溜息をついた。
「ふう……」
スーシィは階段を下って七六七の壁へ向かう。
廊下を左に曲がり続けて三週したとき、右の柱の影にその道はある。
この行き方を真似しなければ、部屋を使っている今は壁に近づくことすらできない。
七六七と書かれた壁は、今だけ壁ではなく扉となっていた。
幻を見せる魔法、人通りが滅多にないこの部屋へ近づく者はその魔法によって幻覚を見てしまうのだ。