「私が何を言ったところで、あいつらは全部嘘だと決めつける。
だから、何を言ってもいいのよ」
どうせ嘘だったんだ、という台詞がユウトの中で反芻される。
しかし、それだけだろうか。ユウトは釈然としない。
アリスには自分のせいでこうなったのだという責任があるのか、シーナに静止を求めた。
「シーナ? ちょっといい?」
「あ、アリスさん?」
アリスはシーナの驚きをよそに、こんなことを言い出した。
「ダブルワンドってことは、詠唱もダブルなのよね?
どうして杖一本分の詠唱しかしていないのよ」
「あ……」
ユウトは思わず納得し、声を上げる。
「私が見たダブルワンドの詠唱はね、
声を空間に反響させてその音を補強しながら二つのスペルを同時に放つタイミングを作る感じだったわ」
「「えっ?」」
ユウトとシーナは驚く。
「あによ、何か変なこと言った?」
「アリス、ダブルワンド出来ないんじゃなかったのか?」
アリスは夢で自分がどのようにダブルワンドを成功させたのかを説明した。
なるほどと二人は納得した。
「でも結局本当にはならないじゃないか」
「うるさいわね。夢で成功させました、なんて言えると思う?
だからこれから私も練習するのよ」
アリスがシーナを心配して来たのだと何となくわかった。
「ほら、もともとマナって大気にあるものでしょ。
自分の中のマナも起爆剤のように使うけど――」
夜は更けて行き、月明かりに三人の姿は裏庭に浮かび上がっていた。
それからしばらくして、シーナがダブルワンドを成功させてしまうことをだれも予想できなかった。