――――。
「荷物、それだけ?」
手には半分くらいしか入っていない大きめの刺繍バック。
「はい、元々私の物はあまりありませんので……」
「お別れを言う相手は……いないか」
あの黒服の老人だが彼は言うべきことは言うし、教えることは教えるだけの人だった。
彼とは契約での間柄、きっと彼が言うこともすることも、もう何もないのだろう。
「――いってきます」
馬車は静かに動き出した。
何もない平地をひたすら揺れ動く。
ユウトはシーナを横に、これから向かい出会うであろう五年前の少女を思い出していた。
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