ほどかれた手を名残惜しそうに見たシーナだったが、すぐに辺りを見回した。
「アリスさんたち、いませんね……」
「少し進んでみよう」
平らな足場の両端を囲むように様々な大きさの岩が並んでいる。
「シーナ、気をつけて」
「はい」
道は右回りに続いており、岩のない場所だと左は崖になっていた。
上を見ると、垂直の岩壁が雲へ届かんとばかりに伸びている。
「こりゃ、大変だ」
このような断崖絶壁の山間でモンスターに襲われると大抵は命を落とす。
滞空系の魔法を掛けていなければ、退がることができないからだ。
「シーナ、フライかアンチフォールの魔法はあるかい?」
「フライならなんとか出来ます」
「じゃあ、まずそれを掛けて――」
二人は少し登って来たところで、拓けた平地へと出る。
そこにランスとアリスの影があった。
「アリス?」
「……」
アリスはあからさまに怒っていた。
その双肩はつり上がり、両手拳は硬く握られている。
ランスの方は笑っていた。
「良かった、二人とも無事だな」
「おいおい、使い魔に心配されていたのかい?」
時折下から吹き荒れる風が、アリスのスカートをめくるように通り過ぎていく。
慌ててアリスはスカートの裾を抑える。
「っちょ――」
「さっきからこんな調子でね、先へ進もうとしないんだ」
ユウトはなるほどと思ったが、同時に笑いも堪えなければならなかった。
「あ、あによ! 山登りなんか初めてでこんなの聞いてないって話しよ! だいたいね――」
「おや、シーナの方は平気みたいだね」
見ると、シーナは風が通りすぎようとも衣服一つ揺れていない。
「ど、どういうことよ。何かクエストに補助装備とか支給されてた?」
ユウトはアリスの慌てる様子を見ていたい気もしたが、可哀想なので教えることにする。