Neetel Inside 文芸新都
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 ユウトは背中にツェレサーベルの剣を確かめると再び断崖に飛び移った。
「ごめんなさい、気をつけて下さいね」
「そっちの方が大変だろう」

 シーナの声にランスは自嘲めいた笑いをした。
「あんた、結局なんで着いてきたのよ」
「…………」
 ランスはわずかに視線を逸らして呟いた。

「?」
 風に攫われたその言葉をアリスは求めなかった。
「じゃあね、上を見たら殺すわ」
「まてっ」
「何よ」
「使い魔は終わったらユレンのやつに返してやってくれ、部屋は――」
 迷惑をかけたなとランスは最後にいって小さく蹲った。
 ランスはやがて霧に隠れて見えなくなり、ユウト達は頂上へ近づいているのを感じていた。

「もうすぐだ」
 霧が晴れたとき、山の終わりが見えた。
「何よ、ここ……」
「凄いですね」

 山の山頂はまるで楽園だった。
 湧き出る水や草木に花、それを透き通った空気で通して見る艶やかさがある。
 神秘的な何かが漂う場所だった。

「こんなところにハルバトがいるっていうの?」
 アリスは惚けていたが、ユウトは殺気と気配を感じて剣を引き抜いた。
 その時、頭に直接語りかけるような声が響く。

『ほう、これを見抜くか……人の子よ』
 くぐもった明晰さを持たない声がずっしりと重圧をかけてユウトたちを襲う。
「きゃ――何これ、不快だわ」
 湧き出ていた水が赤くなると景色は徐々に豹変していった。
「空間が赤色に……」
 草木は枯れ出し、地面は腐敗した色となり、空すら赤く染まっていった。

『グォオオ――我が家へようこそ、歓迎するぞ』
 現れたのは翼を持つ禍々しい巨躯。

       

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