Neetel Inside 文芸新都
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「(ありがとう、シーナ)」
 攻撃は効いていないが、追撃を免れた。
 それからシーナはそれをいくらか繰り返すもユウトの劣勢は変わらない。

「そんな……まるで効いていない? さっきまでは確かに――」
 シーナは詠唱の長いダブルワンドも考えた。
 ユウトがじり貧に瀕しているのは理解している。

 それだけに間に合うのだろうかと逡巡する。
 徐々に避けられなくなっていくユウト。
 その鈍さは激痛による集中力の低下が原因にあった。

『どうした、やはりダメージは貴様の方が上ではないか! 私はまだまだいけるぞ』
「頭を破壊されてまだまだも何も……」
 もはや相手が跳躍(と)べないと解るや、翼と腕、尾を使った攻撃を集中してくり出してくる。
 そしてついに横払いになぎ払われた右翼にユウトは見切りを誤った。

「ぐわっ――」
 伸縮自在である翼を後方へ避けてしまっただけで、ユウトは致命的な窮地に立たされてしまう。
 追撃の尾を食らい、地面をボールのように転がっていくユウト。
 幸い崖端から切り返していたおかげで、中央へ投げ出された。

「……やだ」
 その時、アリスは二つの影が動かなくなったのを見て突然よたよたと走り出した。
 おぼつかない足取りが、ユウトへ向けられる。
 そこにたどり着くまでに十数秒はあったが、ハルバトはまるで解っていたと言わんばかりに停止していた。

「アリスっ、駄目だ来るな!」
 首に両腕を巻かれるユウト。アリスの温もりが静かに伝わってくる。
「――っ」
『――フッ、ハハハ、何と愚かな……何故お前たち人間はそうも自分以外のもののために死に急ぐ――』
 ハルバトは尾を振り上げた。

「「Melva!(水流)」」
 シーナの一撃はダブルワンドで倍増しにした攻撃だ。
 人間大の岩なら砕きかねない水圧で尾がわずかに揺れる。
 しかしそれはハルバトにとって興じを損なう逆鱗であった。

 どすりと一羽ばたきするとシーナの前へ立つ。
『小娘、お前は数少ない水の使いだからと最後まで生かしてやりたかった。
 だが、そこまで死にたいのならやぶさかではないぞ――』

       

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