――どさ。
「あ……ああっ」
ランスは自分がそうなっていたことを想像し、どれだけ無謀なことをしでかしたのかようやく理解に至った。
目の前の怪物は、一生徒ごときが手に負える相手ではないのだと。
戦意を完全に喪失したランスは後から聞こえてくる詠唱に気づかない。
それは、空中に舞うハルバトも同じであった。
「lolo ultulmerl…kiki uruikmel…dada slorijiol…imim aliekso….(エレメンタルに対なるものたちよ)」
『ふはははは、そうなると確信していたぞ。間に合うよう威力を半減しておいて正解だったな。お前が消えれば後は――』
「Kile nla Atem ――(爆ぜろ)」
『ぶッおごkfj――』
ハルバトは突然大爆発し、黒煙にまみれた。
それはさながら出来の悪い花火が打ち上がったようでもある。爆風でランスは地面に這いつくばった。
「ユウトッ!」
ランスを通り過ぎて行ったのは小柄な少女だった。
背中を舞う髪はユウトと同じ、珍しいブラックカラーだ。
「ユウト、しっかりしなさい」
あれだけ強かったはずのハルバトがたったの一撃で煙を出しながら物言わぬ肉塊となって崖下へ落下していく。
驚くべきは、その少女の卓越した魔法にあった。傷ついたユウトに駆け寄った彼女はおもむろに回復魔法を行使し始める。
回復魔法は学園内でも水属性を持つ教師しか使えないというのに、彼女は全く苦もなくその力を扱っているのだ。
「……」
みるみるうちにユウトの受けた傷は癒えていき、逆に彼女の方は額に汗が滲んできていた。
「良かった――内蔵損傷の早い段階で治療にあたれたのが幸運だったわ」
何事も無かったのかと思うほど、ユウトは先ほどのむごたらしい姿からただ眠っているだけかのような普通の状態へと戻った。
「…………」