Neetel Inside 文芸新都
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 ユウトははっと顔を上げる。ベッドと装飾された壁が目に飛び込んできた。
 恐らくはあの積み上げられたものこそが、アリスの両親なのだろう。

 解ってしまえば悪夢としか形容できないものをアリスはゴミの山だと思っていた。
 そして最後にあの男がアリスに掛けた魔法。
 あれこそが、アリスの寿命を脅かすものであることは容易に理解できる。

 歳を重ねるごとに彼らの残虐性は理解に及ぶものとなっていくはずだ。
 今日に至るまで強い恨みを持つのも当然だとユウトは思った。想像もつかない凄惨さがあそこにはあった。

「だからもう、庇わないで……」
 腕の中で顔を伏せたアリスが小さく呟いた一言が今度は重い。
 ユウトはアリスに召喚された後、訓練所に送り出されたことを恨んではいない。

 見知らぬ場所では生きていけないほどに弱かったのだから仕方がないと整理できた。
 しかし、アリスは強さを心から望んでいたのではない。そんな予感めいた確信もまた沸いてくる。

「俺はアリスの……」
 何だというのか、使い魔だと? 恋人でも友人でもアリスを納得させられるだろうか。

 俺は一体どうしたいのか。ユウトは刹那にそれを思った。
 そうして気がつく。自分はただ、この泣きはらす少女を何とかしたい。
 たったそれだけのことが、今のユウトには途方もなく遠く感じる。

「その男を倒すのに俺も協力する」
「なん、で……」

 赤く腫れた目尻がユウトを見上げる。
「俺がそうしたいんだ。アリスを苦しめた、そして何よりそいつのおかげで俺は訓練所に放り込まれたんだしな」
 笑ってみたユウトはちょっと後悔した。

「………………」
 一瞬アリスは気まずそうな顔をした。

 そしてアリスはほんのりと頬を染めた。
 ユウトに抱きついてしまっているという恥ずかしさにようやく気がついた羞恥心から跳び上がる。

「――や、やっ!」
 アリスは弾かれたように飛び退き、突然のことにユウトは狐につままれたような顔で立ちすくむ。

「ど、どうしたんだ」
「――も、もう寝る!」

 何か光るものが一瞬見える。
 布団を空へ投げるように被ると、アリスは団子のように丸まった。

「お、おい。俺の話しはまだ……」
「勝手にすれば!」
 それきり、アリスは静かになった。

       

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