「……では、これで授業を終了します」
鐘の音がユウトを微睡みから引き上げる。
「じゃあね、ユウト」
スーシィは用事があると言って席を立った。
さっぱりした頭の隅にどこかもやがかかったような心地で、
ぼうっと座っていると目の前に一房の髪が舞った。きつい目尻をさせて女の子が立ちふさがる。
「こら、使い魔。アリスを呼びなさい」
セイラのそれは怒気を孕んだ声で、腰に手を当てて前屈んだ。
「アリスは寝てるよ」
寝てるという言い方は間違いかもしれないが、
布団から出てこないのだから似たようなものだとユウトは一人納得した。
「何それ、病気なのかバカにしてるかどっちなの?
ダブルワンドが出来るようなことを言っておいて今更それ?」
「アリスは確かにできないけど、シーナは出来るようになったぞ」
気前よく杖を差し出したことをもう忘れたのか、セイラは目を丸くしてシーナを見た。
「シーナは杖を返しに来ていないだろう?」
「た、確かにそうね」
「見ないのか?」
「……そうね、アリスより確かにあの子の方が強そうね……」
始めの勢いも失せ、セイラはどこかよそよそしい。
「ユウト、一緒にお食事しませんか?」
セイラとの間に割ってはいるシーナ。長くふわりとした髪が、陽に晒されて水色に輝く。
日向を甘くしたような香りがユウトの鼻孔をくすぐった。
「ああ、シーナさえよければこっちからお願いしたいくらいだよ」
勢いに負かされてそう答えたが、セイラという少女はシーナを睨んでいる。
そのまま教室を出ようとすると、セイラは二人に叫んだ。
「お待ちなさい! いずれこの決着は付けさせて貰います」
決着も何も何かが始まってすらいないのに、おかしなことを言っているとユウトは思った。
「俺?」
「シーナさんの方です!」
「え? もう(どうでも)いいです。ユウト、早く行きましょう?」
シーナはそれだけ言うと、ユウトを連れて教室を出て行く。
ここ最近はアリスの目を盗んではこういうことがしばしば起こる。
シーナは学園に自炊できる教室があるのを知ると、そこへユウトを誘ってくれるようになったのだ。
「いつも助かるよ、シーナ」
「いいえ、これくらいは当然です。
ユウトは私と……いえ、私たちと何も変わらないんですから」
使い魔の食堂というのは確かに酷い食事しかないが、
この自炊教室はメイジが自らの自立を促す役割と、
食事に制限が必要な使い魔を管理するメイジの為に設けられていた。
夜は閉まっていて使えないが、シーナはあの大空間での食事は落ち着かないと特別に鍵を預かっている。
つまり、シーナの計らいによってユウトの食事問題は完全無欠に解決されたのだった。