教室へ戻る途中でシーナは話しかけた。
「ユウト、聖誕祭(グロイア・デオ)を知ってますか?」
「? グロ――なんだ、それは」
「この学園で冬に執り行われる祭り行事のようです」
「クリスマスみたいなものか」
「クリスマス? 昔言っていた?」
ユウトはクリスマスの説明を今一度すると、シーナは驚いた顔で告げた。
「そういえばそっくりですね。
夜に来るというサンタだけ少し忘れていたようですが、
プレゼントを貰うっていうのは確かにほとんど同じです」
「ほとんど? 聖誕祭は違うのか」
「はい、聖誕祭は年に一度の締めくくりのようなもので、
今年一番お世話になった人に感謝の贈り物をしたり、
意中の人に思いを告げる日でもあるようです」
ただ……、とシーナは言葉を濁す。
「感謝の贈り物はいくつ贈っても貰ってもいいそうなんですが、
意中に想いを告げられるのは一人につき一人だけなんだそうです」
「……どうしてそんな制限が? 告白できるのは一人に一人だけ?」
「それはですね――」
シーナが言い掛けた時、かっと開いた教室の扉から女の子が飛び出してきた。
「きゃっ」
ユウトの胸板にぶつかる直前でこめかみから伸びた薄黄色の髪がふわりと揺れて遠ざかる。
碧と翆の宝石のような眼がユウトを上目遣いに見上げた。
「危ないじゃない」
怒ってる風には聞こえず、かといって諭しているようでもない。綺麗な流水のごとく声だった。
わずかにハの字を描いた眉はもともとそういう顔なのか、
くっきりした栗型の目に愛らしい印象を与えている。
何処か懐かしい雰囲気。ユウトはそう思い、彼女の独特な才色から目を逸らせないでいた。
「ごめん」
それだけを告げる間が随分長く感じた。
学年は下なのか、その子は緑色のリボンを小ぶりな胸の上につけている。
固まったままのユウトに柔らかく微笑むと、
「じゃあね」
と言って去っていく少女。
「……ユウトはああいう子が好みですか?」
どこかくぐもったシーナの声。その表情は口元だけが微笑んでいる。
「い、いや……?」
薄ら寒さを感じつつも、ユウトはそう答えた。
「そうですか?」
彼女が去っていった廊下にはもうその後ろ姿はない。
聖誕祭は人々とマナの誕生を祭るものだからという曖昧な返答で、
それきりシーナは応えなくなり、無言のまま歩いて行く。