Neetel Inside 文芸新都
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 マジョリアと決闘を行う二人は魔法陣に乗って演習場へ向かった。
 追いかけるように生徒たちが外へ走る。
 スーシィは魔法陣を使うことが出来ると言って、人気がなくなったのを見計らって魔法陣を使った。
 光りの渦が沸き起こり、それが引いていくと、大きな湖をバックに草原のあるところへと出た。
 学園の横に位置するその広場はサロマンの湖に面した広場でもあり、授業で魔法の訓練を行う演習場でもある。

 湖をバックに見渡す限りが草原と木立のその場所に対峙する二人と一匹。
 それを見届けるべく集まり始めるクラスメイトたち。
 セイラは隣りに犬のような四足歩行のパワードウルフの使い魔を従えて、相対する少女は華奢な身一つだ。

「これより、ミス・ラグランジェルとミス・ホオイェンの決闘を開始します」
 マジョリアが二人から離れると空中に杖を振りかざす。
 二人を取り囲むように光りの輪が走ると、生徒たちは各々その輪を避けるように後ずさった。
 それが開始の合図だったのか、先ずは灰色の影が跳ねた。
 そう思った瞬間に少女の躰は既に宙へと泳ぎ、そこへセイラが容赦なく魔法を穿つ。

「Gell alza !!(黒火球)」
 放たれたのは即詠唱の歪な黒い煙だった。
 宙に浮いた少女は避ける術もなく自由落下の矢先にその塊を綺麗に受ける。
 裂けるように赤く迸る閃光が必殺の威力を持っていることを証明した。
 硝煙は爆音と共に大気に暗い影を生みだし、焼け焦げた臭いが辺りに充満する。

「おお――――」「流石、学年一のセイラだわ」「中堅クラス以上でござる」
 クラスの歓声がわっと沸いた。
 信じられないほど容赦のない戦いである。
「おい、やりすぎなんじゃないか」
 しかし、マジョリアはまだ決着がついたとは言っていない。
「あんなに容赦なく魔法を撃つなんて……」

 シーナは少女が居たであろうその方向を不安気に見つめて言った。
 辺りは何も見えないほどに黒い煙によって覆われ、いよいよセイラの姿も消える。
「あまいね」
 そのせせらぎのような声が闇から響いた刹那、何本もの水の大蛇がうねりあがった。
 じゅわ、じゅわ。水が悲鳴をあげながらセイラを捉えようと飛びかかる。

「ホエイ! 下がって!」
 蛇のようにしなやかな動きの水流がいくつもセイラに飛びかかる。
 水は煙をかき消して行き、二人の姿が徐々に明瞭になっていった。
 じゅわ、じゅわ。
 ホエイと呼ばれた獣の背中にまたがったセイラはその水蛇をくぐるように躱す。
 じゅわ、じゅわ。
 耳障りな着弾の音が響く。ホエイは透き通った水のオブジェを漂う煙のように見える。

「Onikis..kelialoe Flaise..(淀みの力を持ち、凍れ)」
 水蛇は少女の杖からいくつも放たれた後、自らに意志を持ってセイラを追いかけ飛びつき、そこに凍結の花を飾りだす。
「風魔法の応用ですか」
 マジョリアも感嘆とした様子でそれを眺めている。
「Chaser..(さらなる追撃)」
 少女は目を瞑り、蛇をより大きく、数多を召喚していく。
 セイラも幾度となく攻撃を試みるために近づくが、その度にかすり傷を負っていた。
 氷の彫像はもはや舞台を余すところ無く飾り、少女の立ち位置だけが緑に浮かび上がるようだ。
 冷気によって白む空気の中で獣にまたがるセイラがいた。

「くっ、ホエイ! Ignition!!(発火)」
 ごうっと音がした途端、熱気が氷の半分を瞬時にかき消した。
 セイラの使い魔が燃えるような真紅に染まり、背中を蒸気に歪めていた。
「一族の実力を見せてあげましょう」
 セイラはそう言うとその使い魔の熱をモノともせずに背中から降り、長期詠唱を始めた。
「Lacc..Licc..Lecicc..(火、炎、豪火)」
 当然少女はそのセイラをめがけて攻撃を放とうとする……しかし、その詠唱は杖を構えたところで使い魔によって阻止される。

「グルルゥゥウ……」
 ぐわりとその毛が総毛立ち、空間があまりの熱量に耐えきれず炎上したようだった。
 爆発という形容が相応しいほど、はっきりとした爆音を持って使い魔が消え、同時に少女が光りの結界へ強かにぶつかる。
 直線に燃え上がる芝は、少女のいた位置まで真っ直ぐに伸びている。それは使い魔が通過したことを証明していたのである。
「あ、あんなの避けられねぇよ」
 ユウトの隣にいたクラスメイトが呟く。
「やだ、燃えてる!」
 ざわめく周囲の学生たち。
 吹き飛んだ少女の身体は光りの壁にぶつかって土の上で転がり、不気味な炎を上げている。
 それはかつて少女だった体、誰もがそう思ったときだった。
 バキィ――。

「キャウンッ」
 火だるまのそばにいた使い魔は突然閃光に弾かれたように吹き飛んだ。
 空気を無理矢理引き裂いたような轟音がとどろくと、ようやく何が起こったか実感できる。
「そんな……嘘よ……」
 セイラは詠唱を止め、一撃のもとにひれ伏した使い魔を凝視する。
 じゅ、じゅ。
 燃え尽きたかつて少女だと思っていた残骸は、ただの水となって土へ返った。
「――氷が燃えるなんてとんでもないマナなんだね」
 声がする方を生徒は一斉に見た。
 戦場とは無縁の空中。そこに少女は優雅に漂っていた。
 ブルーとグリーンのオッドアイ。その両眼に添えられたハの字の眉は下の者に対する慈悲にすら見える。

「どうする? 勝負はついちゃったと思うけど」
 少女が杖を天に掲げる。碧く捻れるように伸びた異様な杖。
 嘘ではない残酷な宣言が、セイラの負けを促している。
「ミス・ホオイェン。わかっていますね、決闘は戦闘不能か、負けを認めるまで続きますよ」
 マジョリアが憔悴に駆られ、慌てた様子で声を荒げる。それほどまでに実力差は歴然としていたのだ。
 生徒たちは皆なにも言えず、ただ次の瞬間に正真正銘の命の搾取が行われるのかと息を呑んでいた。

「――わ、わかった。負けよ、私の負け……」
「……」
 圧倒的な実力差。少女は傷一つどころか、汚れすらない。ゆっくりと降下すると、余裕の微笑すら浮かべていた。
 光りの円が解かれ、息を呑んでいた教員たちが一斉に駆けつける。
 歓声も拍手もない、白けた決闘の幕引きとなった。


       

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