次の日、セイラの使い魔は全治二ヶ月という重傷であることが学園で噂となった。
当然セイラは授業を欠席した。テストでの採点は0となり、
100ポイントがポイントカードから引かれた。
クラスメイト達はその少女がルーシェという名前であることと、
セイラを倒したことでメィンメイジの学年一ではないかと騒がれていることなどを噂していた。
「僕はテストどころじゃないと思うんだが……」
カインは金髪を掻き上げてその濁った赤い目を逸らす。
「そうね、あのレベルの魔法は既に先生、いやこの学園の園長クラスといってもいいくらいだもの」
スーシィでさえ、そう言うのだ。間違いはなかった。
騒然となっている教室はもはやいかんともしがたく、
教師と互角かそれ以上の実力を見せたルーシェの活躍は一躍有名となった。
セイラに勝ったルーシェに挑む生徒もおらず、
クラスではルーシェと遭ったら逃げるよう話し合ったりなど、学園の雰囲気は変わっていった。
アリスはそんな中、皆の表情を伺うように教室へ入ってきたが、
アリスがダブルワンドを出来なかったことについて追及する者などおらず、既に忘却の彷徨へと忘れ去られていた。
今日もいつものように席へ着くアリスの横をユウトが続く。
辺りが騒がしいのを気にして、アリスはユウトに聞いた。
「これ、一体どうなってるのよ?」
「なにが」
「このクラスよ。廊下で聞いたじゃない、
何か変わったことはないのって。明らかに異常よ。
セイラの名前も時々出てくるし、みんな何を噂してるのよ」
「……セイラが下級生に負けたんだよ」それを聞いてアリスは目を丸くする。
「嘘でしょ?」
「こんな嘘ついたってなんの得にもならないだろ」
相当ダブルワンドを気にしていたのかアリスはしばらく取り憑かれたようにブツブツと言っていたが、放課後になって教室を無言で立ち去った。
ユウトはその後を追いかける。どうも嫌な予感しかしないのだ。
「アリス」
「あによ」
早足で廊下を進んでいくアリスの背中にユウトは声を掛ける。
「まさか、そのルーシェなんていう子と戦おうとしたりしないよな」
「なんで? 戦いたいわけ?」
頭を左右に振るユウト。
「じゃあ、黙ってて」
有無を言わせぬ物言いだが、やはりユウトには不吉な予感しかしないのであった。