「――力だけで卒業出来るのなら、こんな進級制度は無意味だからよ!」
ようやく先日のクエストでお情けの200ポイントを溜めたカードが虚しく光っている。
フラムは別段怒った様子もなく、アリスを見据えていた。
「ただの魔法勝負で下級生が上級生に勝てるわけがないじゃない。魔法を勉強している時間は全然違う。
それを勝ったということは、真っ当な魔法ではなかったはず、そうでしょっ?」
アリスはフラムを睨むような目で見返す。
「違うのぅ。あれは純粋な魔法勝負じゃった」
「嘘よっ! 真っ当な勝負でないのに勝つことを目的にするくらいなら手段はいくらでもある。
そういう決闘制度を問題指摘しているんです」
フラムは何処か呆けるように言ったことで、アリスは啖呵を切った。
ユウトは一考する。確かにフライで浮くルーシェという少女には違和感があった。
漂うような動きでフライは飛ばないからだ。フライではなかったのかもしれない、
だとすればルーシェはどんな魔法で空中へ浮いていたのか?
「お主は実際に見たわけではないじゃろて。
嘘だと言うのなら、証明するのじゃ。
そうすれば、あの決闘は不正があったとして――」
「今すぐ是正してくださいと言っているんです!」
アリスは息も切れ気味にそう叫んだ。
どうしてここまで向きになるのか、ユウトには何となくわかった。
アリスのこの五年はまさに苦難の連続だったといえるはずだ。
弱い使い魔、自分の余命、強いられた内にある闇魔法の探求。
それらはいかに学業を疎かにしても自分の力だけでは遠く及ばないものだと知りながら、
誰の助けを乞うこともなく、今まで必死に学園というわずかな知識の宝庫を拠り所にして学び学級を上がってきたのだ。
それを今、一人の少女に力だけでこうも簡単に否定されようとしている。
「戯けるではないぞ、アリス」
しかし、フラムの返答はその理不尽なものを肯定するかのように現実を浴びせる。
「……え」
ユウトは風のようにアリスの前に進み出た。
フラムのマナは異常なほど部屋に満ちている。
窓はめしめしと揺れ、燃えていた燭台はその火種を炎に変えていた。
「……ルーシェは確かに主の言うとおり、不正があったのやもしれぬ。
しかし、尊厳せねばならぬのは二人が合意の元で決闘を行ったということ。
ここを違えてはならぬ」
ふっと急速にマナの圧力が弱まると、自分たちが汗を掻いていたことに二人は気がつく。
「だが、アリス。
お主にもお主なりの譲れぬ矜持があることはようく解った。
下級生が上級生に勝てるはずがないと、そうも言った。
普通の学生ならば確かにその通りじゃ」
「はい――」
ユウトは反対こそはしないが、ルーシェとやり合うのはご免だと思う。
「そこでじゃ、アリス。お主は時にグロイア・デオを存じておるかの」
「聖、誕祭……?」
「左様じゃ。そこで行われるうら若き者どもの合理の上での決闘がある」
「まさか、あの下級生と同じ相手に告白申請を出して決闘しろというんですかっ?」