「その通りじゃ。決闘は一ヶ月に一回までと決まっておるが、グロイア・デオの日だけは特別。
意中の相手が同じならば、最後の一人になるまで決闘が出来る」
まさかそんなことでどうにかなるものだろうか。ユウトは思った。
「一対一じゃセイラでも傷一つ付けられないのに?」
アリスもこの点に関しては同じ意見だったらしい。
だが、話しにはまだ続きがあった。
「今回、ワシは過去の例も鑑みて集団勝負にしようと思っておる」
「えっ? 集団戦なの?」
フラムは確かに頷いた。
「まぁ、後はどうしようと勝手じゃがの。
この勝負、負けたものは決闘と同じ扱い。
二度とその学年に決闘を申し込むことはできん」
アリスは頭の隅に学年全員対ルーシェで勝てば、
ルーシェは実力だけで卒業できなくなるということが思い浮かぶ。
「い、いいんですか? そんなことがあって」
「何、年々上級生に憧れる下級生が増えておってな。
告白者が多いと場所は不足し、目にとめて貰おうと時間は稼ごうとするわで可哀想じゃったからの」
ユウトは気になり出した。何故、皆そこまで聖誕祭に拘るのか。
「あの、聖誕祭で告白すると、何か良いことがあるんですか?」
ユウトの質問にフラムは言下に低い声で答えた。
「――どんな要求でも告白された側は呑まなければ、死ぬんじゃよ」
「し、死ぬっ?」
ほっほと笑うフラム。
「百人くらいが一人にいたらの話しだわ」
アリスは付け加えた。
「聖誕祭はマナと人の誕生祝い。そこでワシがそういう呪いめいたサプライズを設けたんじゃ」
酷すぎるとユウトは思った。
「お言葉を返すようですが、そんなんじゃ色々問題が――」
「いいんじゃ、最近の若いのは情欲に率直だからの。これぐらいせんと皆欲求不満で何を起こされるかわからん」
「あの、でもそれだと――」
ユウトは男から女に告白をしようとしたときの凄惨さを想像してしまう。
告白を目論む男が多いと、大変なことになるのではないか、と。
ましてや告白側が強い。何しろどんな要求でも呑まなければならないのだから。
「ユウト、あんたくだらないこと考えてるでしょ」
「え、でもだな……」
「女子の場合、意中に思いを告げる側なら告げられる対象にはならないし、
例えそうでなくてもこのエロじじ……フラム大先生が最後に相手をする手はずになってるわ」
「え、なにそれキモイ」
「き、キモイってなによ……? まあ、断ったとしてもせいぜい十人くらいで風邪ひいて寝込むくらいよ」
がっかりしたような、安心したような気持ちでユウトは「そっか」と一言呟いた。
それをよそにアリスが聞く。
「でも、大先生。ルーシェが告白する対象を選ばなかったらどうすればいいんですか?」
「ふむ、それは難儀じゃの。じゃが、安心せよ、その少女はもう相手を選んでおる」
「え?」
驚いたアリスはたじろぎながらフラムへ聞いた。
「それは、一体誰なんでしょうか」
「そんなことは個人の毀損に関わるからの……まだ言えんのう」
フラムは髭を持て遊びつつ続ける。
「じゃが、お主も知っての通り、グロイア・デオは告白対象の告知が直前に行われることになっておる。
そこでそやつと同じ人間に告白の申請をし、雌雄を決するが良い。
皆の心の準備と、情事の整理を怠らぬようにの」
にやにやと笑うフラムは本当に楽しそうであった。
二人の胸中に一抹の不安と、それぞれの安堵が沸く。
次のクエストが終わる頃、聖誕祭(グロイア・デオ)は始まるとフラムは言った。