Neetel Inside 文芸新都
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「そのうち解るわ」
 スーシィは含み笑いを浮かべながら話しを変えた。
「最初にユウトを取り戻す話しをしたとき私はあなたのことを知っていると言ったけど、どうしてかわかる?」
「いいえ……」
「私が初めて『あなた』のことを知ったのはジャポルでよ」
「え?」
 丁度スーシィの部屋の前まで着いてしまい、
 シーナは先の話しが本当なのか問いたかった。

 部屋の中へ招かれるシーナは、この後に普段している自己鍛錬の時間を削ってでも話しを聞くべきだと予感する。
「あの日、私はユウトがジャポルへ行くことを偶然知ったの。
 その時私はどうしても『魔法を使えない使い魔』が欲しくて、後を追うことにしたのだけれど――」
 シーナとユウトを監視していたこと、
 召還者のアリスを殺すように脅したことなど、スーシィの話しはどこか他人事のように続いた。

「殺すって……そんなの嘘ですよね?」
「やむを得なかったわ」
「どうして……」
「私とアリスは同じ目をしていた。
 己の全ての犠牲を何とも思っていないというような目。
 だからこそ、私の脅しくらいでは屈しないと切に思えたのよ」

 その後、スーシィは六芒星団に捕らえられたことと、
 運良く変化の魔法で逃れられたものの、元に戻れないでいることなどを話した。
「どうしてそこまで話して下さるのです」
「簡単よ、あなたはアリスと違って一途で賢い」
 スーシィは机の上の薬瓶の中から一つを取ってシーナへ手渡す。

「これは……?」
「あの溶液の最後に入れる液体よ。
 ユウトを召還したいならユウトのパルス(体液)――とこの薬瓶を入れなさい。
 もし、思いとどまったのならこの薬瓶だけ入れればいい」

 呪文薬と言うそれはよくみると爛々と輝いており、小さなルーンが浮かんでは消える不思議な液体だった。
「この薬自体が召還呪文(スペル)……?」
「そうよ。アルケミストがよく使うレトロな物だけど、
 私が特別に何年もマナを貯蔵して作ったものだから力だけは桁違いに強いわ」

 時代が進んだ今では呪文も無駄が省かれ、簡易化に成功し呪文薬の活躍はなくなった。
 なのでスーシィの用途は専ら自己魔法の強化。その為のマナのストックだと言う。
「その中でも一番強い強化。尚かつ召還用に生成したとっておきよ」
 シーナはそこまで貴重なものは返してしまおうとして、思いとどまった。
「あの、こんなに凄いものを使えるならスーシィさん一人でも出来たんじゃないですか?」

 その一言にスーシィはわっと笑った。
「――はあ、ダメね。私のマナは性質が普通ではないから……
 同じことをしても召還できるのはせいぜいエンセントドラゴン。
 それならもう既にいるしね」
 そう言ってマントの後から取り出したトカゲのようなドラゴン。
 両手で持てるほどの大きさのそれはとても大人しく知性ある目つきをしていた。
 スーシィがどことなく猫背に見えたのはこのドラゴンのせいなのかとシーナは納得する。

「意外と驚かないのね」
「え、いえ、これが本当にドラゴンなのかなって」
 苦笑混じりにシーナは一歩後ずさる。
「まあ、いいわ。とりあえず、召還に成功したら私がしてほしいのはその使い魔を定期的に貸してほしいの。
 危ない目には遭わせないわ、ただマナを持たずに強靱な肉体をもって存在している生態を研究させてほしいだけ」
 どうかしらとスーシィは言う。シーナは断る理由などなかった。

「でも、それなら今のアリスさんに頼めばいいのでは……」
 普通のメイジならそれくらいは何でもない。見せてくれと頼んでいるだけなのだ。
 しかし、アリスにはそれが通用しない。スーシィは重たく口を開いた。
「だめなの、あの子は後悔してるから。……ユウトを手放したことを」
 彼女の中でユウトがどんな存在なのかは薄々感づいてきていた。
 そんな使い魔をまた引き離すことに罪悪感を覚える。でも、それと自分のこの気持ちは違うものだとシーナは自分を戒めた。

       

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