Neetel Inside 文芸新都
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4の使い魔たち
シーナの得点

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 ――二日後。

「え? アリスが進級確定?」
「あによ、その意外そうな顔は」

 スーシィがアリスの部屋で驚きの声を上げていた。
「凄いじゃない。奇跡だわ」
「奇跡……」
 ユウトは蒼剣に赤い布を巻きながら苦笑した。
「ちょっとユウト! 笑ってるのわかってるわよ!」
 あのポイントカードに600ポイント以上入っていたことはまさに奇跡だろう。
 クライスについてフラムより話しを聞くところによれば、クライスという生徒は三年前の学生だったらしい。
 サモンエスケープが主人より先に死んだ使い魔に適用されず、
 クライスの強い思念を曖昧な空間に閉じ込めたのだろうとスーシィは語った。

「ふふっ、じゃあとにかくアリスはもう問題ないわけね」
「残念だけど、そうなるわね」
 アリスはベッドの上で自慢げだった。
 スーシィはそんなアリスを見て、それより――と神妙な空気をつくる。
「あなた達、なんか前より仲良くなってない?」
「気のせいだろ」
 ユウトが即答した。
「――そ、そうよ、気のせいよ」
 ふうんとスーシィはユウトを手招きした。
「じゃ、ちょっとユウトを借りるわね」

「えっ?」
「気のせいなんだからいいでしょう?」
 アリスが「あ」とか「え」と言っている間にユウトとスーシィは廊下へ出た。
「で、実際は?」
「何の」
「アリスとユウトは何であんなに自然になったのかって聞いてるのよ」
「どうして」
 スーシィは頭を抱えて口を閉じた。
「やっぱり歳相応だわ、アリスもユウトも」
「? まぁ、最近になって突然邪険にされることはなくなってよかったけど。
 仲良くなったといえば、なったのかもしれないな」

「そこまで気づいてて、無意識なのね……」
 スーシィはシーナのことについて話し始めた。
「あの子、多分進級できないわ」
「え、どうして!」
 ユウトは声を荒げるより他になかった。シーナは学年一のセイラと並ぶようなメイジのはずなのだ。
「ポイントが全然足りない。後二回のクエストで400ポイントを稼がないと無理なのよ」
 だから協力してあげてほしいの、スーシィはアリスが療養中だからと付け加えた。
「それは構わないさ、けど……アリスは許さないんじゃないか」
 あんな言い方をしてクエストを拒絶したシーナにアリスが良くするとは思えない。

「確かにね……」
 あの時は掲示板で高得点クエストに限り一人が条件になっていた。
 しかし、それをアリスが知ったとしても、シーナのそれはまるで絶交のようにも思えた。
 スーシィはシーナの部屋の前までくるとノックした。

「はい」
 入るなり、シーナの顔は破顔した。
「ユウトっ、なんだか久しぶりに……見た気がします」
 手を伸ばすシーナにユウトは一歩引く。
「……ユウト?」
「ご、ごめん、なんかいけないような気がして……」
「いえ……」
 行き場を失った手は下に降りた。
 シーナは一瞬息をのむ。
「どうしてアリスにあんなようなことを言ったんだ?」

 ユウトは寂しげに降ろされたシーナの手を取ってみる。ひやりとした感触は今も昔も変わらない。
 それでも、ユウトの中に何かが引っかかっていた。
「ごめんなさい、今は言えないの……」
 スーシィが首を小さく振ってユウトに答える。
「でも、決して二人を嫌いになったとか……そういうのではない……んです」
 シーナの瞳にユウトの悲しい顔が浮かんでいた。
 ここまでしてユウトをアリスから引き離すのが本当に正しいことなのか、シーナにもわからなくなってきた。
「ごめんなさい」
 ユウトの視線から逃れるように視線を床へ逃す。

「そのうち説明してくれるよな?」
 ユウトはそう答える、シーナが家族のような存在であることに変わりはないのだ。
「はい……」
「はいはい、そこまで」
 スーシィは一人蚊帳の外なのが不服そうに二人を遮った。
「とりあえず今はシーナが進級するのに必要なもの、まずはこれ」
 そこにはルールが書かれたメモがあった。
 使い魔の同行、ポイントの消滅、不正行為、色々書かれているが、滅多に該当しないものの方が多かった。

「最後よ」
「最後……えっ――」
 そこにはユウトの知らないルールが追加されていた。
 ポイントカードは奪い合うことを良しとする。
 尚、1枚のカードにポイントを譲渡することは可能。(ただし、分割は不可とする)。
「これって……」

「そう、学園側は実力があるにも関わらずクエストでポイントが溜まらなかった者のためにこういうルールを出したのよ」
 ユウト以外の二人は神妙な顔つきになった。
「それじゃあ、地道に集めてた奴から奪うのか?」
「そうなるわ」
「シーナも賛成なのか?」
「はい……ユウトにも協りょ――」

「俺はいやだよ!」
 ユウトはシーナの肩を掴んで言った。
「なあ、今からでも遅くない。きちんと普通にクエストを受けてポイントを溜めよう。どんなクエストでもクリアしてみせるから」
 な、と念を押すがシーナは狼狽して目を白黒させていた。
 ユウトは何よりシーナに人から奪うという行為をしてほしくなかった。
 シーナは必ず奪った生徒のこともずっと気負ってしまうだろうと確信できる。
「無駄よ」
「どうして! 諦めるのはまだ早い!」
「じゃあ聞くけど、仮に200ポイントのクエストがあったとして、
 それも何とかクリアした後、疲れ切ったところを襲われてもシーナのカードを守れる?」

 ハルバトで100ポイント、その二倍の200ポイントが仮にあったとして、
 一体どれくらいの難易度なのかは想像もつかない。

「でも、この学園の校則は……」
「正々堂々? なりふり構ってくるかしら、皆もう後がないのに……
 もし、仮にクエストだけで一度に200ポイントを獲得するというのならユウトが昔に戦ったビックメイジなみの戦いを覚悟した方がいいでしょうね。剣の力に支配された――」

「言うなっ、言わないでくれ……」
 ユウトは目を瞑ってからゆっくりと目をあける。
「ユウト……私」
「ああ、ごめん」
 そういうことよ、とスーシィは後ろ髪を掻き上げた。

「他に方法はないのか」
「ないわね、十中八九全員が同じことを考えているはずよ」
「それじゃあ……」
「そう、後の二回は誰もやらないでしょうね」
 暗澹とした三人を急かすように窓は風に吹かれてキシキシと音を立てていた。

       

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