――次の日の朝。
小鳥も鳴かないような日の出前。
アリスは手提げ袋を前にして、スカートをおさえるように立っていた。
「待ったかの」
学園長じきじきに出立に挨拶してくれると聞いてアリスは恐縮していた。
アリスは恥ずかしさから人目を忍ぶようにして頭を下げた。
「わざわざご足労いただき、ありがとうございます。学園長先生」
「いや、今日は出立の挨拶をしにきたのではない」
「え?」
アリスは考えてしまう。実は退学は間違いだったのだろうか、と。
「実は――、ワシもついていくことにした」
「は?」
好奇心だろうか?
そんなものをアリスは感じていた。
「――なんでも主の使い魔は『死の使い魔』と呼ばれているそうじゃの」
老人の喜々と震えるマナは恐ろしいほどのうねりを帯びていた。
――畏怖。
ただ、それだけがアリスを支配し始めた。
「……」
「聞いておるか? ぬ、……すまん。ついマナを奔流してしまったの。
主も退学で際立つのは望むところではないであろうから、今のうちに出るとしよう」
そういうと彼は一切の荷物を持たずに歩き始めた。
アリスは先ほどの話しの途中を聞いていなかった、というより耳に入らない状態にあった。
アリスはその背中を追うように駆ける。