喧騒が一瞬で静まり、人集りに溝が出来た。
そこから中年の男が現れ、悠人はぎょっとした。
彼があまりにも強大な存在に見えたからだ。
ホワードと呼ばれた大柄の男は眉間を寄せて唸った。
「(私の魔力をこの歳で見抜いているのだろうか)」
大きな木の杖を持ち、真っ黒なローブに朱色の縫い込みが施されている。
――映画に出てくる魔法使い?
悠人は急に怖くなった。――ここはどこだろう。僕の家は?
頼れるのは辛うじて言葉が通じそうな目の前の少女だけだった。
悠人はとりあえず、大人しくしていることにした。
しかし、アリスと呼ばれた女の子は平然と物騒なことを口にしていた。
オーガと戦わせてみましょう、とか、崖から落とせば飛ぶかもしれない。
そう言って冷ややかな目線を送ってくる。
これが『頼れる存在』だとは思いたくなかった。