「ほほほ、しまった。もはや国境を軽く飛び越えてしまったようじゃ」
「ん――」
アリスは先の大回転に目を覚ますことなく熟睡していた。
「ありえぬ寝付きの良さじゃの……。
――ドラゴンの君、やはりもう降ろしてもらってかまわん。
体に大穴が空く前にの」
ドラゴンは翼を折りたたみアリスたちを支えながら急降下する。
ばきりばきりと木々の枝を折りながら地面に着地した。
ドラゴンは掠り傷を負っていた。
「すまんの……、いや、この娘は降ろして行けよ?
ん? 『だから嫌だった』 何、流水の女神に会えば一発で治してくれるじゃろうて、
ほれ、これを持って行けば優遇してくれるじゃろう」
そういって自らの杖を竜の首に手前の毛で結ぶ。
「ぬ? 『ふざけるな』? 大マジじゃよ。
ヘタしたら主は流水の女神の城に近づいただけで凍てつく彫刻にされてしまうかもしれんのじゃ?
場所はほれ、杖が光を放っておる方向よ」
『……』
さっさと行けと手で促すとドラゴンは低く唸った後、大空へ舞い上がった。
「……」
「――相手が遅くなってすまんの。出てきて良いぞ」
巨大なタイガーの使い魔を横に据えてこちらの様子をうかがっている。