「お、お前か。侵入者は! 今すぐ杖を捨てよ」
「違う、彼は侵入者ではない。先ほど入国許可証を確認した。
監視局には釈明書待機するよう通達してくれ」
「ど、どういうことです。彼は明らかに検問すら飛び越えている……」
男は「隊長命令だ」というと、それ以上言葉を介さず森の闇へと消えていった。
「度々、失礼を――。重ねてお詫び申し上げます」
男は深々と頭を下げて老人に詫びる。
「――いや、よいのじゃが、
それより知らず知らずのうちに国境を越えていたらしいのう。
旅はもう幾百年もしとらん故、勝手が及ばなかった」
そうでしたかと男は外套の懐から一枚の厚手の銀紙を差し出した。
「ではこれをお持ちください。ジャポル認可の全領域フリーパスです」
「施しはありがたいんじゃが、そのような物をただで受け取るわけにはいかん」
「ふむ、では失礼ですがどこまでお行きになられるのでしょうか」
「ジャポルというところじゃな。恐らくそこまでがワシの役目と踏んでおる」
「役目……と、申されますと?」
男は外套に先のフリーパスを戻しながら空いた手を顎に置く。
「向こうで寝ておる娘の使い魔がイスムナのコロシアムにおったのじゃが、
そやつとジャポルで再契約させようかとの」
「なんと――!」
男は目を丸くする。