ジャポルまで後数十キルメイルというところで、アリスの一行は宿を取っていた。
そして、アリスは寝ぼけた頭で目覚めた朝のことだった。
「アリス、主は今までユウトの時以外に再び召還を行ったことがあるかの」
フラムはアリスの部屋の入り口で、
髭の生えた顎を櫛で解かしながらアリスに尋ねた。
使い慣れたチェリーの絵柄が入った櫛。
それがろくに風呂も入っていない老人の顎髭に犯されている。
「うわああああああ! それ私の櫛です!」
一息に覚醒したアリスは投球するようにフラムの髭ごと櫛をぶちりとむしり取る。
アリスはぜえぜえと息を切らして項垂れた。
「いったいのう。そんなに気に触るようなことじゃったか?
主は心の鍛錬が足らぬな」
ギトギトになった櫛を見てアリスは涙ぐんだ。
「(もうだめだこれ……捨てよう)」
アリスは櫛をゴミ箱に放って、手洗い場に向かった。
「待て」
「――ッ、な、なんですか」
「主はまだワシの質問に答えておらん。召還を行ったことはあるのかねと聞いておる」
「あ、あるわけない……です。
そもそもそんなことは校則で禁止されているじゃない……ですか、
それにもしまたユウトみたいな使い魔が現れたら、とにかく召還はしてません」
「ふむ」
失礼しますと今度こそアリスは手洗い場へ向かった。