「どけ! 足下にかがむんじゃねえ!」
貴族を見慣れた商人たちは、
アリスの風貌から金の臭いを見定めると冷たい態度で闊歩していく。
――あれがなければユウトの居場所を掴む魔法が使えない!
そう思うも、みるみる間に遠ざかっていく杖。
アリスは必死になって行く末を追うが、とうとう見えなくなった。
「じょ、冗談じゃないわ! 買い換えたらいくらすると思ってるのよ!」
アリスは啖呵をきってみせるが、シャレになっていなかった。
一番安い杖でもジャポルで買ってしまえば残金など残らない。
「か、買うなんて……そ、そんなのバカのすることだわ。
ふ、ふん、杖なんかなくても大丈夫よ」
「――毎度ありい」
商店街の一角から頭を出したアリス。
まるで命の次に大切なものを握りしめるかのような物腰で雑踏を歩く。
「か、帰りは宿を諦めれば大丈夫……まだいけるわ」
こんなことでメイジになりそこねることなんて出来ない。
そんな思いからアリスは懐を叩いて杖を買ってしまった。
「い、今さら返品なんて…………」
アリスが野宿を覚悟して買った杖は軽く旅費を超えていた。
それでもアリスは貴族のプライドを捨てて必死に懇願して負けてもらったのだ。
見てくれはいかにも『玩具』のようなメッキが施されているチープな杖だが、
これでも最安値である。
「……趣味じゃない」