ぶつぶつと杖に文句を言っていると、
きゅるるとアリスの腹の虫が鳴る。
気づけばアリスはひらけた雑踏外れにいて、
腹の虫が聞こえたのは多分そのせいだった。
「貴族にあるまじき節操のない腹ね……なんてひもじいのかしら……」
全財産と引き替えに得た杖を大切に懐にしまう。
「同じ轍を踏むなんてこと、ありえないんだから。
―――あ、ポケットに木の実がある……」
アリスは嬉々として親指ほどの実を持って、ベンチに腰掛けることにした。
向かいにいるホットハッグを食べる同年代くらいの若い男女を見て生唾を飲み込む。
「(あ、あれはこの街の裏名物とかいう……ふん、分かってるじゃない。
総じて巨大都市にうまいものなんかありはしないのよね)」
アリスはいつだったか、情報誌でそんな記事をみたことを頭の中でなぞってみた。
「(…………あの二人は恋人同士なのかしら、随分若いのね。
やっぱりジャポルは男女の関係も進んでいるのかしら――)」
そんなことを考えながら木の実を食べきってしまい、アリスは大変なことに気がついた。
「(そ、そういえば私の使い魔はちゃんとご飯を食べているの……?
いくら強くなってても空腹という敵には勝てないわよね……?
ああ、そもそも強い使い魔って総じて大食いじゃなかったかしら)」
お金はもうない。
例え使い魔が空腹で倒れていたとしても埃すらやれない。