女は失笑しながらランプの横に戻り、杖に向かって詠唱を始めた。
『(我が血標――)wllile laineyogltem――』
杖は女の放つ光を貪欲に吸い込み出したかと思うと、
かたかたと音を立て、やがて静まった。
「く――、なにして……」
「さ、これでユウトを召還なさい。
そうすれば命だけは見逃してあげる」
目の前に差し出された杖を見越して、
アリスは女に言った。
「あんたね、メイジが他人に召還しろっていわれて
召還すると思ってるの?
私がそんなプライドのかけらもないメイジに見えるって?」
「……」
まさかアリスが四肢を縛られた状態で歯向かうとは思っていなかったのか、
女は宙に留まった杖をそっと降ろし、フードの中から静かに言った。
「あなたはあの使い魔を捨てたんじゃないの。
使い魔たかだか一匹を渡すくらい何でもないでしょう?」
女の包みのない言葉にアリスはさらに憤る。
「はあ? どうしてそうなるのよ。
私は使い魔がどうしようもなく弱そうなガキだったから
訓練所に送り出しただけなのよ。
捨てたわけじゃないわ、
そもそもメイジが使い魔を捨てたりするもんですか」
すると、女は腹を抱え海老ぞりになって高い声で笑い出した。