テーブルに並んだパンとミルクを食べながら、アリスはユウトに問いかけた。
「あんた、この五年の間に自分の家に帰りたいとか思わなかったの?」
ベッドに腰掛けさせられたアリスはユウトに言った。
「そりゃ、最初の頃はね」
ユウトは何かを思い返すように遠くを見つめた後、そっと紡いだ。
「何にせよ、恨んでなんかいない。そこは安心してほしい。
アリスさ……も別に俺を呼びたくて呼んだんじゃないんだろ?」
「当たり前よ! それと、私のことはどうとでも呼んでいいわ。
どうしても『さま』をつけたいっていうなら仕方ないけど」
アリスはふんっと髪を払い上げる。
「わかった」
「あ、あれ。そこは是非『さま』をつけて呼ばせて下さいって頼むものじゃないの?
そういえばあんた最初からため口聞いてるわね」
「ため口じゃだめなのか?」
「主従関係にイーブンなんて存在しないのが普通よ」
アリスはユウトを食い入る目で見て言った。
「ま、まあ言い訳をする気はないけれど、……本当にごめんなさい。悪かったと思ってるわ――」
アリスは自分の不甲斐なさを認めてしまおうと思った。
「そう、だから特別に、特別にっ! ため口でもいいわ」
「そ、そうか」
「そうよっ」
アリスは顔を背けながら上ずり掠れた声で言った。
ユウトは苦笑しながら何だか居たたまれない気がしてそっぽを向く。
「助けてくれて……ありがとう」
「……うん」