「あんた、こいつが私に何しようとしたかわかってるの?」
「信用できないのはわかる。けど、この子は体が変異するほどの大魔法を失敗したといっている。
それは、命に関わる問題なはずだ」
見てくれこそ十歳くらいの少女だが、これがあの女だったとは誰も思えないだろう。
「ありがとう、ユウト」
少女は目元に小さいものを溜めた。もちろんアリスはそれを冷ややかに見つめる。
「ちょっと、何でそこで私の使い魔にお礼を言ってるの?
私はあんたなんか認めてないし第一、私は殺されかけたんだから!」
「…………」
「ほら、ユウト、その女を早く部屋の外につまみ出してよ」
ユウトは泣きそうな少女とアリスを交互に見ながら狼狽する。
「それじゃ、取引しましょう」
は――? とアリスは口を開けた。
「あんた聞こえなかったの?
私はあんたなんか信用してないっての。そんな相手と取引なんか論外よ」
「それじゃ、アリス。
あなたその体でどうやってサロマンのフラメィン学園まで帰るつもりなの?」
「……そりゃ、歩いて帰るわよ」
「へえ、じゃあ歩いて見せてよ」
するとアリスは一瞬表情が翳(かげ)り、手首をユウトに伸ばして手招きをする。
「え? 何」
「立たせなさい」
「(え、俺小間使い――?)」
ユウトはアリスに寄っていって手を握ると、しなだれかかるようにして立ち上がった。
「た、立ったわよ」
「私は歩いて見せてって言ったの。ごまかさないでよ……」
「何もごまかしてなんかないわ、みてなさい」
くうと唸るアリスは眉間を寄せながら下唇を噛んだ。
少女は黙ってアリスを見ている。
ゆっくりとアリスはユウトから手を離して立つ。
「――っ!」
「おい、アリス、顔色が――」
冷や汗を掻いているアリスはとうとう一歩も踏み出すことなく膝から折れた。
慌ててユウトが抱える。