Neetel Inside 文芸新都
表紙

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 人の足並みが雨のように鳴り続ける雑踏街。アリスはユウトの背中で悠々と語る。

「昔読んだ童話の中に子供が母親をおんぶして世界を周ったお話があったわ」
「…………それで?」

「その子供は十二人目の子供だったんだけど、
 何故か他の子供たちはみんな母親の元を離れて暮らすのよ」

 ゆらりゆらりとゆれるアリスの髪が雑踏の中に舞う。

「そりゃ、普通は自立していくよな」
「ところがね、そんな母親の元に最後まで残ったのは一番下の末っ子だったの。
 なんでだと思う?」

「わっかんないな、そもそもそんなことに理由なんてあるのか?
 そして俺がアリスを担ぐ理由はあるのか?」
「あによ、人がせっかくあんたの背中で我慢してあげてるっていうのに。
 荷台引きの方が良かったかしら?」

「……荷台なんかにしたら目が回ると思うけどな」

 アリスはユウトの背中に抱えられて自慢気に童話を聞かせているが、
 雑踏の中ではユウトが前方からくる大男たちをひょいと避けながら歩く。
 そんな調子で荷台引きに乗るようなものならアリスはまともに話すことすら出来ないだろう。

「フン。とにかく急ぎなさいよ」

 目指すはサロマンという場所だ。
 フラメィン国の領土になるが、
 入国許可証はアリスが既に持っているのでサロマンへは直で行くことが出来る。
「そういやアリス、スーシィは――」

「もうその話しはやめて頂戴。治してくれるっていうんだから治してもらうだけよ」
「でも、ここでしか手に入らない薬草を買っていくって言ってたぞ。絶対高いって」

「いいのよ、そんなことはどうでも。
 向こうが信用してほしくてやってることなんだから、後はただ結果だけを見ればいいのよ」

 ユウトは些かスーシィという子が不憫な気がしたが、
 アリスの脚が治れば二人は仲良くなるのかも疑問だった。

「……ま、私はそれより一刻も早く学園に戻りたいから気を遣うとか遣わないとか、
 そういう話しはどうでもいいってわけ」


       

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