それから何度か似たやりとりがあったようだったが、うとうとしてきたユウトは途端に目が冴えてきた。
さわさわ……。
そう、原因はこの変な音だ。
「……」
さわさわ……。
ああ、これはまずい。
この衣擦れの音は何かがまずい音に違いない。
ベッドの上で桃色のシーツを握りながらアリスがそわそわしている。
「す、スーシィ……」
アリスはもう何度目かわからない問いかけをまたするつもりなのだろうか。
「なあに、あなたの服は着替えさせたくないって言ってるでしょう」
「ち、違うの。わ、わかるでしょ? もう、すぐそこまで来てるってことがっ」
ユウトは息を呑んだ。
「なにが来てるの?」
さわさわ……。
「わ、わかったわ、私の負けよ。だからお花を摘みに行かせて?」
「行けば良いじゃないの。私は別に行ったらダメとはいってないでしょ」
「もう! どうしろっていうのよ!」
アリスは顔を紅潮させながらいよいよ限界といったところだった。
「そうやってプライドを保持しているうちは、いつまで経っても行けないわ」
「ごめんなさい。本当に、でも本当に限界なの」
凄いとユウトは思った。
限界だというのにごめんなさいにまるで誠意がないアリスは本当に凄い。
「あなたはものを頼む姿勢っていうものを本当に知らないのね。……負けたわ」
スーシィはやり過ぎてごめんなさいと一言言うと、涙目になっているアリスにレビテーションを掛ける。
(あれ、魔法は……)
ユウトはそう思ったが、ことは一刻を争うであろうし、それを言及することもしなかった。
スーシィは足早にアリスを連れて部屋を出ていった。